素良でヤンデレ甘

シャキン、シャキンと鋏の音を立てて、素良が私の髪を切っていく。前髪が目にかかるようになり、邪魔になってきたと呟いた私に、素良は僕がやってあげると言って有無を言わさずその場に座らせた。いつも自分の髪も自分で切り揃えている素良はさすがの腕前だ。美容師にだってなれるんじゃないかと思うくらい、とても上手に髪を切って揃えて自分好みにデザインしていく。
だけど、私は知っている。彼は自分の髪を切るために、切り上手になったんじゃない。私の髪を、他の誰にも触れさせないために、そうなったのだと。

「できたよ。ふふ、どーお?」
「うん、ありがとう素良。さすがだね」
「それほどでもー。また切りたくなったら僕に言ってね、他の奴らのところで勝手に切ったりするなんて嫌だよ」

手鏡越しに切り揃えられた私の髪を見つめる。その髪を一房手に取り、愛おしげに口付ける素良。素良好みの、素良の手によって作られた、私の髪。いえ、髪だけじゃなかった。

「聞いてる?なまえ」
「うん。大丈夫だよ、素良以外に触れさせたりなんかしないって」
「そう?ならいいよ」

手鏡と鋏を近くの棚に置いて、私を後ろから抱き竦める。髪に顔をうずめて、すんすんと鼻をならす素良はまるで、飼い主から違う匂いがしないか確認する小動物のようだ。そんなことしなくったって、私が素良以外に触れることなんて無いのに。
この髪も服も、食べ物もデッキも、私室のデザインだって、全部全部素良の好み。素良が私のためにと用意した、素良の自己満足。私から誰の影も見たくないという、素良の。マーキングのようなもの、だろうか。

「なまえ、僕のあげたマニキュアつけてくれてるんだね」
「うん、この色好きだから。マリンの……素良の、色」
「嬉しいなぁ。ホント、なまえ好き、僕を不安になんかさせないもんね、ずっと僕のなまえだもんね」
「…そう、だよ。私は、ずっと素良のなまえ」

そう言って、素良の抱きついてきている手に触れれば、ふふっと嬉しそうな声が耳のすぐ傍から聞こえる。良かった、僕のなまえ、僕だけのなまえなんだ。うわ言のように、僕のなまえを繰り返す。
多分、素良はとっくに私のことが大好きでしょうがなくて壊れちゃったんだろうな、なんて人事のように考える。かく言う私も、似たようなものか。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -