生理痛を労るユート



転んだ時の擦り傷や頭をぶつけた時の痛みなんて、痛い!とは思っても蹲るほどではないし、正直言って肉体的な苦痛は覚えど精神的な苦痛には程遠い。まあ、そりゃ重傷だったら別だけど。精神的苦痛さえも負うほどの傷は生きている中でなかなか味わうことはないだろう。けれど、私は、基ある一定の年齢に達した女子は違うのだ。月に一度の内紛がお腹の中で起こっている。
そう、所謂生理、というやつだ。

「っうー…」

そろそろ周期だなと思って、容量の大きいナプキンを用意しておいて良かった…。なんだか今回は調子が悪いのか、いつもよりも鈍痛が酷いし、出る量も多い気がする。1日目から3日目あたりに集中的な痛みが襲ってくるのだが、今日はまだ1日目。まさかあと2日もこんな痛みに耐えなければならないのか、と思うと気が遠くなる。
立ち上がるのも億劫で、起床してからというもの未だベッドの中で身体を丸くしたままだ。ちらりと枕元の時計を見やれば、既に11時すぎ。確か起きたのは8時前くらいだったはずなんだけど、痛みに気を取られて長い時間を過ごしていたらしい。そろそろベッドから出なくては……ああ、でも、起き上がるのも嫌だ…。うんうんと唸っていると、控えめに部屋の扉が叩かれた。

「なまえ、もうお昼になるが…起きているか?」
「う、ユート……?」
「!何かあったのか?入るぞ」
「え」

呻くような私の声に驚いたのか、返事も聞かずに扉を開け入ってくるユート。焦燥感に駆られたように、慌てて私のベッドまで駆け寄ってきた。

「大丈夫、か?」
「ん……お腹、痛いだけ…」
「腹痛?それにしては、大分痛そうだが…まさか、病気か?」
「ち、違うから大丈夫」

だが、と言い淀み、私の額へと手の平を押し付ける。熱はないと判断したのか、その手はすぐに離れた。心配そうに顔を覗きこんでくるユートに、本当に大丈夫だという意味を込めて笑いかける。未だ心配そうに顔を歪めて入るけれど、ほんの少し、彼の表情が和らいだ。

「なにか、オレにできることがあるなら言ってくれ」
「うん…ありがと……」

本気で心配してくれているらしく、私の頭を撫でる彼の手から、彼の不安が伝わってくる。う、うーん…。ただのって言っちゃなんだけど、生理なんだよなあこれ。男子にはないからわからないのも無理は無い。でも、改めて生理ですなんて、父親に言うのも恥ずかしいのに、同い年のユートに言えるはずがない。

「…ね、ユート」
「なんだ?」
「うーん、と……手を」

ごちゃごちゃ考えていても、このお腹の痛みが和らぐことはなくて、相も変わらず鈍い痛みが訴え続けている。今の状態で、何か食べたいとか、何かしたいとかは思えない。けれどまた、1人で痛みに耐え続けるのも、なんか嫌で。

「手?」
「うん、手を、握っててほしい…な」
「……わかった」

ふ、と微笑み、ユートの両手が私の手を包み込む。温かい、手の感触。ほんの少し、痛みによる緊張感が和らぐ。ああやっぱり、ユートといると安心するなあ。ふっと身体の力を抜いた。

「ん…」
「眠いのか?」
「うん……」

安心したせいなのか、なんだか瞼が重たい。このまま起きて痛みに耐え続けるよりは、眠って時間が経つのを待ったほうがいいだろう。眠ってしまえば痛みを覚えることはない。要は敵前逃亡ってこと。うとうとと、段々瞼を閉じる時間が長くなる。あ、これもうだめだ、眠たい。

「眠った方がいい。……オレはずっとここにいるから、安心してくれ」
「…ん……ありがと、ユート」

きゅ、とユートの手の力が少し強まる。私に微笑みかけるユート、彼は本当に優しい。理由も言わない私に、何も言わず傍にいてくれる。これだから、私は彼が、大好きなんだ。

「おやすみ、ユート」
「ああ、おやすみなまえ」
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -