君だけのヒーロー!


私の手を力強く引いてくれる彼は、私にとってヒーローそのものでした。
アクションものの洋画のように、派手に登場してヒロインを助け出す誰もが羨むヒーローではなくて、ただそっと手を差し伸べてくれる、何処か抜けてる私だけのヒーロー。
もう誰も傷つけたくないと、私は私の選んだ道を歩いて行きたいと叫ぶことしかできなかった私に。間違っていると言えず、ただ泣きじゃくって、周りに流されるまま、親に従うことしか知らなかった私に、新しい世界を教えてくれた人。
そんな彼に私が恋心を抱くまで時間はかからなかった。そして彼もまた、私に想いを寄せてくれていると知った時は、私が今迄生きてきた中で一番幸せでした。その怖いくらいの幸せは、未だ私の傍にいてくれています。
だってほら、今この身に感じている体温、それこそが幸せの証。


「遊矢、くん」
「どうしたんだ?まだ寒い?」
「ううん……大丈夫」


彼、遊矢くんが私の手を握ってくれて直ぐ後に、私は体調を崩して熱を出してしまった。
きっと、今まで頑張ってきた分、ホッとしたんだねと遊矢くんは微笑む。そうかもしれない。物心がついてからずっと、親に頼ることもできず、まともな友達だっていない私は1人で戦ってきた。そんな私を気にしてくれていた人もいるけれど、その人も私が変わることを拒絶していた。ずっとここにいればいいと。嬉しかったけれど、もう私は遊矢くんと行くことを決めていて、きっと戻ることもないんだろう。帰りたいと思うことはあっても、決して昔には戻ることはない。
そんな身寄りのない私は、この数日間遊矢くんのお家で養生されてもらっている。ベッドの中で布団に包まる私を心配してくれている遊矢くんは、私の左手を両手で握ってずっと傍にいてくれる。時たま遊矢くんのお母さんが食事を持ってきたり、様子を見に来てくれて、熱は大分落ち着いてきた、と思う。


「っと…なまえ。そろそろ、また体温を測ってみた方がいいんじゃないか?」
「そう、だね」
「体温計は……あったあった、はい」


熱を測るために離された遊矢くんの手の体温に、ほんの少しの寂しさを覚える。ずっとあの温かさをこの手に感じていたいと思ってしまうのは、我儘なのだろうか。まるで彼の心の温かさがそのまま伝わってくるような、私を安心させてくれるあの温かさが、とても恋しい。
それだけ私は、遊矢くんの、ことが。そこまで考えて、自分の頬に熱が集まってくるのを感じた。多分、今、顔真っ赤だ。だ、だって、遊矢くんのことが、す、好き、なんて。


「?顔、真っ赤だぞ。本当に大丈夫なのか?」
「へ、平気!大丈夫!」
「そっか……なんかあったら言ってくれよ。オレ看病とかしたことないしさ……」
「うん…ありがとう、でも本当に大丈夫……」


照れくさそうに頬をかく遊矢くんに、なぜだか私まで照れくさくなる。
ただでさえ今、顔が赤いのに。私は真っ赤な顔を隠すために、シーツを顔まで被り、視界が黒に覆われた。被ってすぐに、熱のせいで吐く息が熱いことに気づく。それを狭いシーツの中で呼吸を繰り返すとなると、これって余計熱くなるだけじゃないだろうか。
そう思い至ったとき、暗かった視界が急に明るくなった。どうやら、遊矢くんは私の被っていたシーツをめくったみたいだ。


「こーら!顔まで被せるのはダメだって」
「ああっ、私のシーツ…」
「熱をぶり返すかもしれないだろ。大人しく寝てろってば」


真っ赤になった顔、見られたくないのに。むっと唇を尖らせると、遊矢くんは一瞬きょとんと面食らった顔をして、すぐに口元を綻ばせて笑った。
……?今、何か面白いことでも言っただろうか。特に、何もなかったと思うんだけれど。わからず首を傾げる。


「なまえのそういう表情、やっと見れたな」
「……えっ?」
「初めに出会ってからずっと、誰かの顔を伺う表情しか見たことなくて。オレの手をとってくれた時、漸く笑ってくれた。でも、そういう、拗ねた顔とか見たことなかったから」


だから、良かったと思って。
そう言って心底安心したと笑う遊矢くんは、私に手を差し伸べてくれた時と同じ笑顔を浮かべてて、思わず目を見開く。私の事、ずっと気にしていて、くれたんだ……。なんだか、胸がぽかぽかと温かくなってきた。


「……」
「……」
「な、なんか、照れるな」
「…う、うん」


これ、もしかして熱上がるんじゃないかな。だってぽかぽかどころか段々熱くなってきた。今遊矢くんとはどこにも触れてないのに、なんでかな。……そんなの、わかっているんだけど……いざこういう、恋人同士なんだなって考えると、その、恥ずかしい。
それは遊矢くんも同じみたいで、さっきと同じように照れくさそうに頬をかく。いつもよりも、頬が赤い。


「……あっ、体温計なった。良かった、朝より大分下がったみたい」
「そ、そっか。良かった!じゃあオレ、飲み物持ってくるよ」


遊矢くんは立ち上がってバタバタと部屋から出て行く。扉のすぐ向こうで彼が転んだ音と「いってぇ!アン!コール!何してるんだよ!」とあがる声に、自然と笑みが浮かぶ。
やっぱり彼は何処か抜けてて、ちょっとおっちょこちょいな、私の、私だけのヒーローみたいだ。




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150510

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