僕達にEndingは訪れない

アカデミア内の図書館の棚の間を、目的の本を求めて練り歩く。
棚の段数が多いからやけに高さはあるし、部屋も広いから本の冊数も異様に多い。きちんと管理されているとはいえ、この中からたった一冊の本を探すのは骨が折れる。

今は授業中なので、室内には私1人だけ。図書室独特の静けさが余計に際立っている。
なんで私は授業を受けないかっていうと、それは私が生徒達の中でも特殊な位置にいるからだ。まあ簡単に言えば、ある程度の授業を免除されている。理由は面倒なので割愛。

それよりも、本が見つからない。
ここ30分ほどずっと探しているんだけれど、全く見つからない。司書は何処に行ったんだろう、と考えて、授業中だったんだと思い出す。どうしたものか。
そう首を捻っていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。


「?…んぐっ」
「あ、引っかかった」
「……ユーリぃ」


振り向くと、頬に指がぷにっとあたる。
そして視界に捉えたのは、葡萄色のマントを身につけた幼馴染ユーリだった。
ニマニマといたずらな笑顔を浮かべ、再度私の頬をぷにぷにとつついてくる。ぷにぷに、ぷにぷに。
……楽しそうなのは何よりだけど、私で遊ぶのはやめていただきたい。
ユーリのその手をとって止めさせると、少し不満そうに唇を尖らせた。


「不満なのは私なんだけどな〜」
「いいでしょ別に、減るもんじゃないし」
「減るどころか私の怒りのボルテージが増えるだけだよ」
「こんなことで怒るなんて心狭いなぁ」


ユーリにだけは言われたくない、という言葉は心の隅にでもしまっておく。
余裕ぶった態度を取るくせに、結構短気だし、多分私以上に心が狭い。私に対してはかなり柔らかい接し方をしてくれるけど、他の人にはすぐに怒る。
一部で女王様とか言われてる事実を、決して本人の耳にいれてはいけないというのは暗黙の了解である。
ちなみに具体的な例として、今ここで私が言い返すとすると、恐らくは頭をグリグリされる刑に処される。
けど、もしこれが他の人だと問答無用のデュエルが始まり、完膚なきまでに叩きのめされるだろう。それくらい対応が違うのだ。
これぞ幼馴染の特権、というやつ……なのかはわからないけど、かなり優遇してくれていることは確か。

とまあ、そんなことは置いておいてだ。私は本を探さなくちゃいけない。
その旨を伝え、私はユーリを背に再び棚の背表紙のタイトルを目でおっていく。
これだけの膨大な本の冊数、中々ほしいものは見つからない。司書でさえすぐには見つけられないらしいから、普段図書館に用のない私じゃあ余計見つかりっこないのかも。
そう考えていると、今度は首筋につつつ……と爪の這う感覚。


「…ユーリ」
「あはは、怒った?」
「邪魔しないでったら!」
「そんなに必死に探したって見つからないよ。だって、なまえは昔から探しもの苦手だったじゃん」
「う……」
「僕とかくれんぼして、いつも見つからないって泣いてたの誰だったかな?」


私です。むしろユーリとかくれんぼしてたのなんて私だけです。
2人だけでかくれんぼしていた恥ずかしい過去を掘り返してくるなんて、意地悪だ。
ジト目でユーリを見つめていると、彼はクスっと笑みを零して歩みを進める。そのまま帰るのかと思ったけれど、3mほど離れた場所で立ち止まり、すぐ右横の本棚から1冊、本を取り出した。
…あれ?見覚えのある背表紙のタイトルに、思わず彼に駆け寄った。


「ほらこれ、探してたんでしょ」
「えっ……な、なんでわかったの。私が探してる本のタイトル言ってないのに」
「姿が見当たらないと思ってなまえの部屋にいったら、本のタイトルのメモ書きがあったから。それより、はい」
「……あり、がとう」


ずっしりと重みのある本を手渡され、落とさないように両手で胸に抱える。
姿がないから私の部屋に行ったってことは、私の事、探してくれてたんだ。それでわざわざ図書館に来てくれた。
そう考えが至り、少し恥ずかしくなる。


「なに、照れてるの?」
「て、照れてないっ」
「顔赤いけど。可愛いなぁ」
「かわっ…」


どうしたんだ。恐怖を感じるくらいに優しい上にお世辞まで口にするなんて、今日のユーリはおかしい。
何か特別に良いことがあっても、上機嫌になるだけで女王様気質は相も変わらずなユーリなのに。何が合ったというのだろう。
それを考えるだけで頬に集まった熱が上がったり下がったりと忙しい。そんな私を見てか、ユーリは小さく息をついて、腰に手をあてた。


「僕だって素直に言う時くらいあるよ」
「……素直?」
「大体、なまえがそんな本読もうとするから。君は楽しくても僕がどれだけ…」
「本?」


恐らく、はてなマークが目に見えるとしたら、私の頭の上には3つくらい浮いていたと思う。
素直ってなんだ、いつもは素直じゃないのか、あんなに文句とか言ってるのに。本ってユーリが探してくれたこの本のことだろうか。私がこの本を読もうとすることで、どうしてユーリに影響を与えるんだろう。
首を傾げる私に、ユーリは前者の疑問を無視して、後者について口を開いてくれた。


「それ、主人公の女の子と幼馴染の男の子が恋愛話でしょ。内容はかなりベタだけど」
「ん…まあ、そうだね」
「……わからないの?」
「何が?」
「僕たちと、一緒でしょ」


抱えている本ごと、ぎゅうっと抱きしめられる。
昔から知っている温かい体温に、ふっと力を抜けば、ユーリは嬉しそうに私の頬に唇をよせた。
……一緒って、幼馴染であることが、だよね?


「本の内容と僕達じゃ立場逆だけど、まあ大体同じだよね。女の子は男の子のことを異性として好きだけど、男の子は女の子のことを大切な幼馴染くらいにしか考えてない。いや、幼馴染でしかない、そう勘違いしていた」
「それが、私達と、一緒?」


返事はせず、ユーリはニッコリと笑う。
女の子は男の子が好きで、男の子も実は女の子が好きで。それを、私とユーリであてはめて、立場が逆……。
これじゃ、まるで、ユーリが私を……?


「……」
「また、顔が赤くなったね」
「や、あ…えっと」
「もうわかったと思うけど、僕はなまえが好き。幼馴染としてなんかじゃなくって、女の子として」


頬に寄せられた唇が、そのまま口づけを落とす。
唇は今度ね、なんてまた悪戯に笑うユーリに、私は今まで感じたことのない、けれど何処か気恥ずかしくて特別な感情が芽生えたのを感じた。




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150503
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