僕は君と幸福です
※「ユーリくんと」シリーズのスピンオフ
ニセモノユーリ注意報発令中



僕としては、僕となまえはもっとスキンシップをもっと図らなければならないと思う。
なまえが僕のことを好いてくれているというのがほぼ確実だとしてもだ。
想い人と手を繋いだりキスがしたいと思うのは、男子として普通のことではないだろうか。僕が普通の男子かは置いておいてだ。
しかし、肝心のなまえは、僕が触れようとすればその手を叩き落としてくるし、不意打ちで抱きしめればビンタと罵詈雑言が飛んでくる。
僕にこんなことするのは君くらいだ、と言えば、良かったですね私がいて、なんて返してくる。全く素直じゃない。
恥ずかしがり屋というにはツンツンしすぎているし、かといって嫌われているわけじゃない。……嫌われていない、決して。

兎にも角にも、僕にとってなまえは僕の隣に立つことができ、尚且つ側にいてくれる唯一の存在だ。
僕はなまえがとても大事だし、自惚れでなければ、なまえも僕を大事に思ってくれているだろう、少なからず。
最初は傍にいてくれるだけで良かった、なんてのはベタだろうけども、実際そうだったんだ。
でもやっぱり、僕だって人間だから、1つ手に入れれば更に10は欲しくなる。
でもなまえはそれを許さない。僕の傍にいるという1つだけを与え、更なる1から10を与えるつもりなんてないみたいだ。
だからこそ、余計に欲しくなるというもの。


「…。人の部屋の前で突っ立ってるのやめてください、邪魔です」
「おはようなまえ、随分なご挨拶だね」
「おはようございますユーリくん。邪魔です」


思い立ったが吉日。
僕は朝からなまえの部屋の前で、その扉が開くまで待っていた。
だって、勝手に部屋に入ろうものなら存在を無視されるし、ノックしたところで居留守だ。少々、僕のことをぞんざいに扱いすぎじゃないだろうか。
ようやく開いたかと思えば、なまえは僕を見てすぐに表情を歪める。
本人の前でする表情じゃない、なんて言葉はもう日常茶飯事なので言わない。


「朝から何の用ですか」
「なまえとキスしたいと思って」
「…………、とうとう、頭イカれました?あ、もともとイカれてますね」
「茶化して逃げようとしてもダメ、逃がさない」


するりと僕の横を通りぬけ逃げようとしたなまえの腕を掴んで、身体を引き寄せる。
右手でなまえの左手と恋人繋ぎ、左手は彼女の腰に回して離れられないよう力を込める。
ぐっと顔を近づけると、薄っすらなまえの頬が赤くなったのは気のせいじゃない、と思いたい。


「離してください」
「やだ」
「私これからプロフェッサーとお茶会なんです」
「ちょっと待ってそんな話聞いてないんだけど」
「嘘です」


あれ、自分からサラッと嘘をバラしてしまうなんて、らしくない。
そう感じたけど、すぐにピンとくる。なまえは今、どうやら混乱しているらしい。
視線がなんだか泳いでいるし、やっぱり頬が赤いような気がする。それが、こうして今までないくらいに身体を近づけているからなのか、それとも今がまだ朝で、調子が整っていないからなのかはわからない。
でも、そんなこと僕にはどうだって良かった。
だって今、僕はこんな至近距離でなまえと触れている。それだけで十分な収穫だ。


「今ならいいかな」
「なに、が……んっ」


唇が触れるだけのフレンチキス。
柔らかな唇の感触が僕に伝わり、それだけで幸福に包まれる。僕自身、これほどにもなまえのことが好きなんだと改めて感じてしまうほどに。
数秒唇が触れ合ったまま、沈黙が流れる。やがて唇を離すと、一瞬の間。すぐに頬に痛みと、ばちんと綺麗な音が僕の耳に届いた。
ああ、これ、なまえのビンタの感触だ。


「…ゆ、ユーリくん、なんか」
「僕なんか?」
「……ユーリくんなんか…………デニスさんと結婚すればいいんです!!」
「ちょっと待って意味がわからない!待って!なまえ!」


頬に感じた痛みに一瞬手に込めていた力が弱まり、なまえはその隙に僕から逃れてしまった。
ほんのりと赤くしていた頬を一変、真っ赤にさせて意味のわからないことを叫んでその場から逃げ去ってしまった。本当に意味がわからないから困る。
結婚なんてまだ考える年じゃないけど、するなら当然なまえがいい。


「……柔らかかったな」


先ほどの唇の感触を思い出して、口角があがる。
あんなにも柔らかかったなんて、思ってもなかった。もう少し味わっていたかった。
なまえの赤い頬が感染したかのように、気づけば僕の頬も熱を持って赤くなっていた。



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