右手が空を切る
例え彼女がオレの弱みとなり、もしかしたら決意を鈍らせる原因になるかもしれないとわかっていても、オレはなまえを愛することしかできなかった。
今のオレは、バリアンのナッシュであって、神代凌牙ではない。だが同時に、神代凌牙であった存在だ。
凌牙にとってなまえは、幼い頃から共に過ごしてきた大切な人間で、やっと手に入れることのできた愛しい女。肩を並べ、この先の明るい未来を想像して、笑っていた。
だがそんな未来は、神代凌牙が人間ではなく、バリアンであったことで壊れてしまった。壊れた未来、凌牙には訪れることはない未来が、今度はバリアンのナッシュの元に落ちてくる。
右手には愛を左手には破滅を、凌牙であったオレが、なまえを愛する未来。
しかし、なまえを愛することと、オレたちバリアンの目的は決して両立できない。何故ならなまえは人間だから、これから滅ぼさなければならない世界の住人だから。
メラグには憐れまれ、ドルべにはいっそのこと、と提案を受けたが、まだ早いと、まだ共に居られると先延ばしにしてきた。
だが、最早……


「りょう……ナッシュ?」
「……なまえ」
「ずっと、怖い顔してる。また、悩んでるの?」


なまえの柔らかな手が、オレの頬を包む。心配そうに細められた瞳、何よりも愛しいと訴えかけてくる。
また、というよりは、まだ、結論が出せていないだけなんだ。
なまえを手放せば、直ぐにでも結論は出る、それが出来ないている、だけなんだ。
なあ、なまえ、お前が最近、そうやってオレを甘やかそうとしてるのは、オレがお前を手放さないようにさせるためか?それとも、


「いいんだよ?」
「……なんの、話だ」
「ナッシュは私のせいで悩んでいるんだよね。私が貴方と違って人間だから」
「…………。違う、オレがお前と違うんだ。お前は悪くない」


そうだ、オレが神代凌牙であっただけなら、良かっただけなんだ。オレがナッシュでなければ、いや、それだとなまえとオレは出会うことすらできなかったはすまだ。結局、オレとなまえはこうなる運命だった、決して逃れることなんてできやしないんだ。


「私、最期はナッシュの傍にいられたら、それで幸せだよ」
「なっ…馬鹿、言うな」
「わかってるのよナッシュ。貴方に私は選べない。だって貴方には貴方のやるべきことがある、そのためには、私が貴方から離れないといけないことも」


何故そんなことを言うんだ、そう言いたかったが、言えなかった。
なまえの言っていることは何一つ間違ってはいない。選択肢などないのに、オレが選べずにいることを、彼女は責めている。
このまま生きたいと思う前に、早く消せと、なまえは言う。決意を鈍らせているのはなまえではなくオレなのだ。
オレがなまえの決意を鈍らせ、彼女の未練となっている。


「私は貴方のこと愛してる。凌牙としての貴方も、ナッシュとしての貴方も。だから貴方の夢を叶えるために邪魔な私は消えたい、ナッシュ、貴方の手で私を消して欲しいの。お願い、わかって、お願いだから」


オレの頬を包み込んでいたなまえの手が、今度はオレの手を掴み、オレの手のひらになまえの頬が押し付けられた。まるで、最期にオレの手の感触を覚えておきたい、とでも言うように。


「ナッシュ」


昔から変わらない可愛い笑顔を浮かべて、オレの口にあたる場所にキスを送る。
それから、お前は、こう言った。


「もし、次に出会えることがあれば、今度はナッシュと同じがいいな」






150416
-------------
アルカ 様
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -