おかえり



夕方、今日の夕飯の具材を買った帰り、一休みついでに公園のベンチへと座る。いつも子どもたちで賑わうこの公園も、皆家へ帰ったようで誰もおらず、私一人だけの世界だった。綺麗な茜色の空をただボーっと見つめる。夕暮れ時の空を眺めるこの時間は、心を照らして穏やかな時を私に与えてくれるとても大切なものだった。そう、できればこの時間は一人が良い、けれど、彼はいつも私の邪魔をしていた。


「よォ」
「…………」
「無視かよ、せっかく来てやったのに」


突然現れ、何の遠慮もなく私の隣にドカッと座ったこのオレンジ髪の少年は大層嬉しそうに笑みを浮かべていた。何がそんなに嬉しいのか、私にはわからないけど彼の雰囲気はとても柔らかい。彼は勝手に食べ物が入った袋の中を漁り、今日の夕飯は…一人で焼肉か。寂しい上に太るぞ。などとからかうように言う。


「余計なお世話。零…、ううん、ベクター、あなたバリアン世界ってところに帰ったんじゃなかったの?」
「…………、来ちゃ、ダメなのかよ」
「そうじゃなくて」


今日の夕飯、一人分しかないけど。と告げれば、そんなことはどうだっていいと馬鹿にしたように笑われた。まあ確かに、彼は人間ではないから食べることはできても食べる必要はないのかもしれないと納得する。こてん、と肩にベクターの頭が乗せられる。本来なら立場は逆だけど、私のほうが(身体的に)年上だし背も少し高いから仕方ない。まあ、精神的な年齢に関しても私のほうが上な気がするけど。


「……、甘えたさんだね」
「うるせェ」


仕方のない子だなぁ、と思いながら肩に乗せられた頭を引き寄せてぎゅっと抱きしめる。一瞬目を丸くして身体が固まっていたけど、途端に顔を真っ赤にしてこちらを見上げてきた。見上げてきたというよりは、睨みつけてきていたけど、そんな赤い顔じゃ全然怖くない。………ちょっと。パッと放せば、重力に従ってベクターの頭が私の膝へと落ちかける。が、すぐに持ち直してベンチに背中を預けたようだ。けれど、赤い顔はまだそのままで、ぷいっとそっぽを向かれる。それが照れ隠しなのはわかってるから、つい笑みが零れる。


「あぶねぇだろ!」
「だって、違うんでしょ?」
「…テメェ」
「ふふ、冗談。よしよし」


頭を撫でてやれば、子供扱いするな!と威嚇する猫のように食いついてくるが、それを無視して撫で続ける。そうすればほら、次第に大人しくなって、段々うっとりとした表情に変わっていく。普段は狡猾なくせに、変な所で単純な子だ。


「…なまえ」
「うん?」
「………また、家、行ってもいいか。やっぱり、オレ…」
「…いいよ、おいで。どうせ今日もそのつもりで本当は来たんでしょ?」


小さく頷くベクターを立ち上がらせ、右手でスーパーの袋、左手でベクターの右手を取る。きょとんとした表情が、こちらを見つめていた。はあ、もう一度、きた道を戻らなくちゃね。一人分追加だもの。


「さ、行こう。もう一回スーパー行かなきゃ」
「別に、オレは」
「いいから!…あ、そうだ、家に行くんじゃなくて、帰ってくるんだよ?」
「…………おう」



0708
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