当分の間アンラッキーはつづいた。
遅延は当然のこと。朝は早くに家を出ているのに遅刻ギリギリであったり、目の前でお目当ての定食が売り切れたり、好きなテレビの録画ができていなかったり。
廊下を歩いていたときなんか、肩がぶつかったヒーロー科の人に「じゃまだモブ野郎が!」とか怒鳴られてしまった。怖かった。
それだけあの人に良いことがいっているということだらろうか。考えて、少し楽しくなる。
そしてそれは不幸にまみれた長い一週間も終わろうと、帰宅している金曜日のこと。
いたのだ、彼が。だるだるに伸び切った黒いパーカーを着て、じっと雄英高校の校舎を見つめ佇んでいる。オーラは相変わらずだ。でも悪い気はしない。
私はふと、この状況を喜んでいる自分に気がついた。私にとってシガラキさんに会ったことは、ラッキー?アンラッキー?
考えても答えなんて出てこなかった。
「シガラキさん、」
声をかければ、彼は肩を少し揺らして。ゆっくりこちらを向いた。
「アンタ、…あぁ、このあいだの頭おかしいやつか。」
「えぇ、頭おかしいって」
「頭がおかしくて、めでたい個性。」
そして、着いてくんな、と彼はつぶやいた。…もしかして私、嫌われてるのかな。
「あ、あのっ、良いことありました…?」
「は…?」
「個性の効果で、シガラキさんに良いことあったはずなんですけども、」
「…………ないな、別に。」
「えぇ、」
あんなに私に不幸があったんだから、てっきりシガラキさんに幸せが訪れてくれたのだと思っていたのだけど。
「…結局インチキ個性だったのかよ。」
「ち、違いますって!いつもは、ちゃんと友達でも効果あるんですけど、、」
「チッ…適当なこと言いやがって。むしろここ最近気に食わないことばかりなんだよ、」
「えっ、それって、どんな、」
「なんでアンタに言わなきゃならないんだ、めんどくさ、」
「いいから!」
「…………セーブ前のデータがトんだ。」
「ふむ、他には、何かあります?」
「なんかイラつく。」
「あとは?」
「訳の分からない女が絡んでくる。うざい。」
私は思わず「へ?!」と阿呆みたいな声を上げてしまった。目の前の男は私にゴミを見るような目線を向ける。……いくら私でも彼の言葉の真意を汲み取ることはできた。ここは、冗談ということにしておこう。
でも、今はそれどころではない。
「………シガラキさん、もしかして、私のせいかもしれません、」
「は?」
「実はですね、私の個性は周りの人をハッピーにするときもあればその逆もあるんです…、」
詳しく話すと長いんですけど、と前置きをして概略を説明した。
私の一連のアンラッキーがシガラキさんにも伝染してるような気がしたからだ。なんというか、直感でだけど。
「…というわけで、わたしのせいだったら申し訳ないなって。でもシガラキさんやわたしが受けたアンラッキーの量に見合うような幸せを受けた覚えはないんですよね、、いままでこんなことはなかったですし、」
普段は意識をしないとこの法則は発動しないはずなのだ。私はうーん、と頭を抱えた。原因がわからないと対処のしようがないし、いつまで続くかも分からず、数回会っただけのシガラキさんにまで迷惑をかけ続けてしまうことになる。それだけは避けたいのだ。
「へぇ………………」
「ほんっとにごめんなさい、」
「なに、それ、」
「いや、シガラキさんにご迷惑をおかけしてしまったので…、」
「ふぅん。」
シガラキさんは不思議そうな顔をして数秒間こちらを見ていた。変な顔でもしてしまっていただろうか。
すると、シガラキさんは何も言わずに私に背を向けて歩き出したので、とっさに呼び止めた。
いつも使っている小さいメモ帳に、数字を羅列して引きちぎる。
「あの!」
「…」
「まってください、これ、でんわ、電話番号!なにかまた私のせいで酷い目にあったらいってください!…何かの手がかりになるかもしれませんし、」
しかし、シガラキさんは無視をして歩き出す。
せめても、と思ったのだが。…やっぱり迷惑だったか、と落ち込んでいたら足音が止まり、今度は近づいてきた。
引き返してきた彼は私の手に握られた紙をじっと見つめたのち、無言でソレを掻っ攫う。
そしてそのまま無言で去っていった。さよなら、と思わず叫んだが、反応はない。聞こえてはいたはずなのでよしとしよう。
なにかじんわりと暖かいものが身体中に広がったような感覚になった。
ソレから数日間、私の些細な不幸は続いてそのたびに彼の姿が頭に浮かんでいた。どうしてここまで彼のことが気になるのだろう?迷惑をかけたから?不思議な人だから?
私は考えた。でも答えは見つからなかった。
携帯は、あれから一度も鳴っていない。
