世界の総人口が約8割がなんらかの"特異体質"を持つようになった超常社会。そしてヒーローが活躍する社会。誰しもヒーローに憧れる社会。

そして私もその一人。ヒーローになりたくて、ヒーロー科を目指して、でもヒーロー科に入れなかった人。みょうじなまえ、15歳。
入れなかったからといって落ち込んではいられない。普通科といってもあの天下の雄英にはギリギリ合格することができたのだ。筆記対策、頑張ってよかった。もしかしたらヒーロー科に編入できるかもしれないし、ヒーローと仲良くなれば将来はサイドキックとしてサポートすることができるかもしれない。そんな淡い期待を抱く、15の春。私は走っていた。




「通学時間の敵ほど迷惑なものはないよな…、」


そう、今朝はちょうど敵の襲来と重なってしまった。大事には至らなかったが、電車に影響が出てしまった。実家が遠い私にとってこれはかなりの痛手。




…この間の授業中に当たりませんようにって祈っちゃったツケかな、あとは昨日の夕飯ハンバーグが食べたいって思ってたらハンバーグになっちゃったし、なにしろ雄英に入れたとか、幸運続きだったからな、、。

そんなことを思いながら私はただ走ることしかできない。息を切らして雄英を目指す。授業に遅れたら勉強についていけなくなるし、たとえ遅延でも追加の課題が出ることがある。1限はもう諦めているが何としても2限には間に合いたい。






あの角を曲がれば雄英の校門だ。あとちょっと、あとちょっと、





私は門をくぐり抜け、ることをしなかった。何故って?一人の男性が雄英の門をじっと見つめていたからだ。

もしかして不審者?それともお困りの方?



そのなんとも言えない異様な雰囲気を感じとり、私はほっとくことができなかった。いざとなったら先生も駆けつけてくれるだろうし、何か困っているようだったら声をかけるべきだ。仮にもヒーローに憧れてる身。大きな力がなくたって、日頃から人助けはできる。

そうして私は小さく息を吸い込んだ。



「あの、なにかお困りですか?」


目の前の男の人はゆっくりこちらを向く。思わず硬直した。フードを被った下から見える伸び切った前髪から覗いた赤い瞳、カサカサの肌、唇、只者じゃない、気がする。


「は?」
「…えっと、」
「アンタ、誰、ここの生徒?」


私は小さくうなづいた。…怖すぎるよ、この人。あぁ、声なんかかけなきゃよかった、と後悔しつつどうやって振り払おうかを必死に考えた。


「へぇ、」



彼は数秒間考えたのち、おもむろに手を伸ばしてきた。え、なに、なにこれ、
ただならぬ雰囲気、威圧感。これは紛れもなく"殺気"だ。そして第六感が逃げろといってる、身体中が警鐘を鳴らしている。何をされるかなんてわからない、ただ、間違いなくここにいるのは危険だ。
でも、いくらでも逃げる隙はあるのに足がまったく動かない。完全に圧倒されていた。


いやだ、死にたくない!!!!!!!!!





そう思ってギュッと目を瞑ると、目の前でパラパラパラ、と何かの音がした。



パラパラ…?なんの、音?




何が、起こった……?
おそるおそる目を開けると彼の手からは黒い砂のようなものがサラ…と流れ落ちていく頃だった。



「…蜂。」
「え?」


情報処理に時間はかかったが、彼はどうやら目の前に飛んでいたらしき蜂を潰してくれたのだ。

「…えっと、あ、ありがとうございます!」

不思議と恐怖は消えていた。それどころか彼は私を殺そうとなんてしていないとわかり、激しい申し訳なさと恥ずかしさが襲ってきた。あの殺気も蜂に向けたものだったのであろう。
助けてくれたのに、見た目と雰囲気が怪しいってだけで悪い人だと勘違いしてしまった。



「防虫かなにかの個性なんですか?」
「は?防虫、、?」
「素敵ですね!とても!便利そう」
「…………うざい、」


そして彼はバツが悪そうに首元を掻きむしっていた。


「も、もしかして、雄英の先生でしたか?すみません、私まだ入学したてなもので存じ上げず…、」
「………俺がヒーローにみえんの?」
「ち、ちがいますか?」
「気持ち悪い、帰る。」





そう言い残して彼は踵を返そうとする。
気分を悪くさせてしまって申し訳ない気持ちに襲われる。ヒーローになりたくて、なれなかったのかな、なんて。そんなはずはないか。失礼ながらそんなことを考えつつ、私は声を上げていた。


「…な、名前!名前教えてください、次はお礼しますから!私これでも結構お役に立てると思うので、」
「へぇ…………、」
「疑ってます、よね。いや、そういう個性なんです、あんまり使わないようにはしているんですけど、」



"個性"という単語が出た瞬間、彼がピクリと反応した気がした。



「…どんな?」
「幸不幸を操る個性です、といってもわたしは力が弱いので些細なこと限定ですけど。私がなにかいいことがありますようにーって念ずれば、多分少し良いことが起こるはずです。道端で100円払う、とかですけど、」

「ショボ、そんな程度だったらいらねぇや。」
「うぅ…雑魚ですみません…」


「…………………名前、人に聞くならまず自分が名乗るべきじゃないのか?」
「あっ、そうですよね、すみませんっ!私みょうじなまえです。えっと、お聞きして良いですか?」
「…シガラキ。」
「シガラキさん!」




そう名前を告げると、彼はボリボリと頭を掻きむしってまたバツが悪そうに下を向いて歩き出した。
…相変わらず、無愛想で、怪しい。だけど、先ほど虫から守って?もらった一件もあり私はシガラキさんがそんなに悪い人とは思えなかった。もう会うことはないかもしれないけれど。
「シガラキさん、」とぽつんとつぶやいて、心の中で彼の些細な幸せを願った。








と、私はここであることを思い出す。そう、私は授業に行かなくてはならない。再び全力疾走を再開し、盛大に教室に入ればみんなの視線を独り占めした。その後も食堂ではスープをスカートに零すし、先生にはうわの空であることがバレて怒られるし、ヒーロー科であろう怖い人には睨まれるしで散々だった。

やっぱり今日はついてない。
でも、その理由は分かっていた。





…シガラキさんの幸せを願ったからだ。



私の個性は幸不幸を操るもの。そして幸せと不幸は等価交換、誰かの幸せを願えば、私には些細な不幸がいくつか振りかぶるのだ。逆も然り。一見プラチナなラッキー個性、しかし現実はそう甘くはなかった。この世の中でなにかを得るためには、なにごともそれに値する対価が必要なのだ。



そして困ったことに、等価交換が私にだけ降りかかるなら良いのだが、これは周りの人にも影響を与える。私が強く願ったことで私や誰かが大きな幸せを手にしたら、その対価である不幸は私だけではその大きさを抱えきれなくなり、周りに降りかかることがある。

さっきシガラキさんには"些細な効果しかない"と述べたが厳密には違う。些細なものにしか適用しないように、自身で制限をかけているのだ。

私が強く願い、周りに迷惑をかけてしまう、それだけは避けたかった。




私はため息をつきながら、シガラキさんことを思い出した。なにか良いことがあったかな?あったら良いな。なんてなんかな考えながら不幸に注意をしながら帰宅をした。










ちなみに、このときの呑気な私はまだ気がついていなかった。



私の個性はヒーローなんかではなく、果てしなく敵向きだということ。すなわち、悪用される恐れが多い個性だということ。そしてよりにもよって、私の個性を知ってしまった彼は、"敵連合"の中心人物であったということ。

そしてこれらの因果が、大きな代償によるものだったなんてそのときの私は一ミリも考えていなかった。

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