なんであの時間にしたのだろう、デザートまで食べていたらあんな風にはならなかったかもしれない。そもそもお店を決めた時点で、彼の事務所の近くだということを察して変えるべきであった。でも、やましいことでもないのに、その必要はあったのだろうか?
後悔、というのはどうしようもなくぐるぐる、と巡って終わりのない問答となる。考えてもこれは過ぎてしまったこと、答えなんて出ない。
ひとつ言えることは、その時の彼の目がひどく冷たくて、なまえはそれが悲しかったということ。
結論からいえばなまえは友人の紹介してくれた男性に会った。友人に1度だけでいいから、とゴリ押しされて引くに引けなくなった故のことだった。心の奥にしこりのように存在している爆豪への思いを見ないフリして、1度くらいはこういうのもアリかもしれないと自己暗示をかけた。
当日は普段行かないようなおしゃれなお店でご飯を食べて、差支えのない会話をする。なまえは珍しい料理の数々に終始感動して、メニューを隅から隅までじっくりと読んだ。相手はそんななまえの熱心な姿に惹かれたらしく、帰りがけにはまた今度違うお店に行かないかと誘ってくれた。
しかし、なまえはまた次も行くかというその誘いに即答はできなかった。付き合ってもいないのに何故か感じるうしろめたさ。蓋をしたはずの爆豪に対するソレが拭えずにいたのだ。
お店を出て、駅を目指して歩いていた時のこと。
タイミングという魔物は、たまにとんでもないイタズラをする。普段なら会いたいと思っても会えないその人に、いちばん会いたくない時に限って会ってしまう。
見覚えのありすぎるツンツン頭が目に入って、たまらなく心臓が飛び跳ねた。そしてそれは、彼も同じだったのだろう。
「………あっ、ばく、」
「ッ、」
2人の目線はたしかに交わった。
一瞬、時が止まったような空気が流れる。
「も、もしかしてあそこにいるのって爆心地?!!!!スゲェ、本物だ!!」
そんなことを全く気にも留めなかった相手の男性は目を輝かせて爆豪に近づき握手を求める。が、もちろん爆豪は手を出さなかった。爆豪が握手に応じないのはいつものことだが、その日はきっとそれだけの理由ではない。
無言で目線をまじわせるなまえと爆豪だが、会話はなかった。
「仕事終わりっすか?俺、いつも見てます!」
「…、」
「ああまじかっこいいっすね!」
「…ごちゃごちゃうっせえ、とっとと失せろ。」
「オオオ!噂通り口悪い!!!気取らなくてかっこいいっすね!ありがとうございます!!!」
その男の人は明日友達に自慢しよう、なんて言って喜んでいたがなまえにとってはそんなことどうでもよかった。
「あ、の、爆豪く、」
なまえの微かなその声は届いていたはずだ。視線も交わっていた。そのうえで、彼は突き放した。なまえは突き放された。その視線はひどく冷たくて、あっけなかった。
爆豪とは付き合っている訳では無い。その関係に名前はない、はずだった。
なのに、どうして。こんなにも心がポッカリと穴が空いたみたいに虚しいのだろうか。
なまえはやっぱり二軒目に行こうと誘われたが丁重に断り、家路をたどった。その間になんどもスマホを眺めてはダイヤルを押そうと電話帳を見つめるが指はそれを許さない。
だがそうして葛藤しているうちに、タイミングよく電話はけたたましいコール音を奏でる。もしかしたら爆豪くんからなんじゃないのか、なんて少しだけの期待。しかし画面を見ればなまえのその期待は当然のように外れていた。
少しだけ肩を落としてなまえは電話に出る。
___そして、その電話から告げられた言葉を飲み込んで、彼女の目の前は真っ暗になった。
まだ電話を切らないうちにスマホを落とし、思わずその場に座り込む。一通りの少ない家路。こんな暗い夜道では彼女に手を差し伸べるものはいない。なまえは告げられた真実に理解が追いつかなくて、ただただその場で呆然とした。