爆豪はイラついていた。
同期にいいように飲み会のネタにされたことがそう。爆豪はいじられるのが好きではない。だけど、原因はそれだけではなかった。
"家に呼んで、ご飯作ってもらって、それってもう付き合ってんじゃねぇの????!"
上鳴の言葉が脳裏を掠める。ソレは案外見当違いではなかった。少なからず図星だったからこそ、余計にイラついたのだ。
爆豪勝己、みみっちく、プライドが高いこの男。
彼はカンがいい。意中の彼女みょうじなまえが、少なからず好意を寄せてくれているのは感じている。
だけど行動を起こすにはやはり足枷が重すぎた。いろいろな感情がせめぎ合った結果、どうにも"付き合おう"のその一言は出てこない。
「…なまえ、それいいように遊ばれてるだけだよ、」
なまえのワインバーには専門学校時代の友人が数人来ていたが、女子が集まれば当然恋バナになる。皆彼氏がいたり、別れたりといった話で盛り上がるが特になまえの話にはみんな勢いよく食いついた。
"ご飯だけ作りに家に行く仲"と聞けばその反応は至極真っ当だ。友人にはなまえと爆豪にあったのかつての関係については伏せてあるので差し支えない限りで話せば、彼女達の誤解を生むのは当然である。
「…出会いは?」
「もともとお店の常連さんだったんだけど、1度変質者からた助けてくれたことがあって…、」
「助けた?ってまさか、」
「…うん、ヒーローなんだ。」
一同は目を丸くして驚嘆の声を上げた。幸いその日は他のお客さんもおらず、騒ぎ放題、それが彼女たちを余計にヒートアップさせる。
「あの、ヒーロー嫌いのなまえが?!」
「ヒーロー嫌いって…、」
「私たちが気がついてないとでも思った?なまえ、ヒーローについて興味ないどころか、ヒーローの話題出すと嫌そうな顔するじゃない。」
「ははは、」
「そのなまえが!!!」
どういう風の吹き回し?!となまえを問い詰める彼女たちだが、なまえはみなまでは話さなかった。相手についてもしつこく問い詰められるが、それについても必死に誤魔化す。もし相手があの爆心地だと知れば益々混乱されるだろうし、彼はお世辞にも優しそうなイメージとはかけ離れたヒーローだ。余計に問い詰められるのは目に見えている。
「でさ、家に行ってるんだよね?それっていわゆる身体だけの関係…、」
「してないから!そういうことはしてないって、」
なまえが慌てて否定をすれば一同はまた目をぱちくりさせる。
「…男女が?家に二人っきりで?ご飯作って、はいさようなら????」
「やばいよ、それ」
「誠実なのかなんなのかよく分からんな、そのヒーローさん。」
今までお互いの関係に疑問を抱いたことなんてなかったなまえだがそう言われると少しだけ胸がチクリ、とする。爆豪にとって自分はなんなのだろう、この名前のない関係は、なに、
「…ヒーローってさ、やっぱりメチャクチャモテるわけよ。で、人によっては相当遊んでるらしい。」
「うん、」
「どんなに強いヒーローでもいつ怪我するか分からないし、最悪死んじゃうこともある。」
「あー、あたしも高校の時ベストジーニストが大怪我したのはメッチャショック受けたなぁ…、」
「あれは衝撃だったよね。ってあんたの話は今はいいのよ。なまえ、怪我をするってことはつまり?」
「…つまり?」
「収入が安定しないってことよ!」
「なるほど、」
爆豪が怪我をする未来を想像して、なまえは胃のあたりがヒュン、としたのを感じた。それは絶対に嫌だ、と思う。
「悪いことは言わない。なまえには普通に幸せになって欲しい。」
「ふつう、に、」
「お店も軌道にのってきたしさ!ここらで彼氏でも作りなよ!なまえは優しいし、料理上手だし、心配しなくても彼氏くらいすぐできるって。」
「あ!なんなら私ひとりアテあるわ。ソイツ最近彼女の別れて落ち込んでるんだけどさ、会うだけでも会ってみない?」
「うん…、ちょっと考えてみるね、」
なまえは即答することをしない。
アタマの中ではあの粗っぽい彼の姿がチラついて離れなかった。
なまえは、おそらく爆豪が好きだ。この気持ちに嘘はないのだろう。しかし肝心の爆豪はどうだ。
彼は、まっすぐで真面目だ。だからもしかしたら自分に負い目を感じてしまっているだけなのではないか。自分に彼氏が出来たら、爆豪は、もう余計な心配をせずに済むのではないか…?
やっぱり胸のチクリ、としたものは無くならない。この名前のない関係をいつまでも続けたい気持ちがどうにも捨てられなかった。