「爆心地のやつ。相変わらずか」
「2週間前くらいからずっとあんな調子ですね…、」
爆豪は荒れていた。かつてない程に。現場では思う存分敵に向かって暴言を吐き散らし、事務作業でもなりふり構わずいつも以上に悪態をつく。
緑谷に初めて負けた時とも違う、体育祭で不本意な結果に終わった時とも違う、初めての感情。なまえと肩を並べていたあの男の目線を思い出しては腹の中の何かが暴れるような感覚に陥っていたのだ。
別に自分はなまえと付き合っているわけでもない。もちろん自分以外の男と一緒にいたらいけない理由なんてまるでない、筈なのに。頭ではわかっていても心はそれを理解しなかった。
あのとき、なまえがなにか言いかけたのを爆豪は意図的に聞かないふりをした。率直に自信がなかった。自分には、彼女が他の男といるのを否定する理由がないのだ。それなのにどんな言葉をかけられる?迷って、苦しんで、とっさに彼女を遠ざけた。
もともとそのつもりだったのだ。なまえに良い相手が現れたらそのまま身を引くつもりだった。引き止める資格もなにもない、だからこれで良かった。
良かった、ハズなのに。
どうにも収まらないこの衝動を。
爆豪はそれを抑えるすべを知らなくて、ただひたすら壊すことを選んだ。
「なぁ、爆豪。」
「なんだ。」
「…最近なまえさんってなにしてんの?」
「は?俺が知るかよ。」
「やっぱ爆豪も知らないのかー、体調でも崩してんのかな、」
あれから数週間、なまえからの連絡はない。勿論こちらからも連絡はしていない。だから何をしているかなんてしらなかったし、いつものように当然店を開けていると思っていた。
たまたま仕事で一緒になった切島に聞かれても返せる言葉なんてなにもない。
「なまえさんさ、数週間店閉めててさ。ブログも更新してねーんよな。」
たしか〇〇日からかな、なんて切島が言ったその日付には不本意ながら覚えがあった。なまえと遭遇した丁度次の日だ。
小さく舌打ちをして俺には関係ねぇ、と呟いたが気にせずにはいられなかった。
切島に飲み行かね、と誘われたがそんな気分でもなく爆豪はその誘いを断り誰も待っていない家に帰る。
静けさが支配するその部屋では、爆豪が調理器具をカンカン、と鳴らす音だけが響いた。
途中でどうにも耐えきれなくなって見たくもないテレビをつける。テレビ版を眺めてもこの曜日のこの時間はどれもくだらなくて面白くないと言わんばかりに、爆豪は舌打ちをした。部屋には女性芸能人の甲高い笑い声がよく響く。
そうこうしているうちにササッと盛り付けを終える。食卓に一人分のおかずをならべ、爆豪はいただきますも言わずに箸をつけた。爆豪はそれなりに料理が得意だ、自分で作った料理も別に不味いわけじゃない。が、それを飲み込む度に無償に彼女のいた食卓が懐かしい。
そして爆豪は静かに考えた。
もし、彼女があの男となにかあったのだとしたら。なにか事故にでもあったのだとしたら。ヴィランに遭遇して怪我でもしていたのだとしたら。
そんなのムカつくだけだ。腹が立つ。ウザい。きっと何もしなかった自分を許さない。切島に言われた『お前のしたいようにしろよ、』という言葉を思い出して反芻した。
「…クソが。」
スマートフォンを充電器から引っこ抜き、ロック画面を解除する。最近打ち込んでいなかったその番号を探してダイヤルをかければ、6コールもの間無機質な音が爆豪の鼓膜を伝った。
やっぱ出ねえか。そう思いコールを切ろうとした時、無機質なコールは急に途切れた。まだ爆豪は切っていない。響いたのは留守電の機械音でもない。
それは、今にも消えそうな懐かしい声。普段より少しだけ低く感じる。
「…生きてんのかよ。」
「ならブログくらい更新しろや。」
「だから、いちいち謝んな。謝って欲しいわけじゃねぇ」
「……………なんかあったんだろ。」
「俺じゃ不満かよ。」
「待ってっから。俺は。アンタが帰んの。」
他愛のない話なんて出来なかった。でも恐れていたほどいつも通り、それまで何を恐れていたのか分からないくらいに。
大切なことは何一つ言えなかった。今はただいつ帰るか分からない彼女を待つだけだ。
冷蔵庫から缶ビールを取り出しそれを一気に飲み干す。
さっきまでのムシャクシャしていた気分はいつの間にかどこかへ消えていた。