ふつうじゃない



『お前さんも変わった奴だねぇ』

船内をご機嫌な様子で散歩するエリカに声をかければ満面の笑顔が返ってきた

『なんですか阿伏兎さん、突然失礼なこと言いますね』

『誘拐しておいてこんなこと言うのもあれなんだが…』

ふつうはもっと怯えたり、泣きわめいたりするもんじゃ無いのかねぇ

団長が与えた、というか贈ったドレスは大層気に入ったようで鏡に映しては嬉しそうに笑う

そんな姿を見て、誰がこの女を誘拐されてきた人間だと思うだろうか


『あたし、誘拐されたこと無いんで普通がよくわかりません』

この世界のほとんどが誘拐されたことないと思うがねぇ

まぁ、泣き喚かれて困るのはこっち
拐ってきた張本人が常に見張っている訳じゃない、ほとんど俺に任される
だから今のエリカに不満がある訳じゃない、むしろ助かる

しかし

…調子が狂うのも事実で

『怯えたり、泣いたりしたら困るのは阿伏兎さんの方ですよ?いいんですか、あたしが泣いても?』

なんて言いながら泣きそうもない満面の笑みを見せる

ほんと、変わったお嬢さんだ



『阿伏兎も気に入った?エリカのこと』
団長が笑顔で言った

『まぁ、興味は湧いたってとこかねぇ』

『へぇ、でもエリカは俺のだからね。それを横取りするって言うなら例え阿伏兎でも…』
笑顔が殺気を帯びた

冗談じゃねぇって

『こっちは女のために張る命なんざもちあわせてねぇよ』

そんなことで団長とやり合うのはごめんだ


『でも、あたし、泣けって言われても泣けないと思う』
エリカの言葉が頭の中をリピートする


『だって阿伏兎さんも神威も、全然怖くないですよ。あ、云業さんは顔怖いかも』


血の臭いが染み込んだ俺たちを
そんなふうに言った奴は初めてだ


彼女が気になって仕方ないのは

単なる好奇心

それだけだ

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テーマ「人外ファンタジー」
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