捕まえた



銀時さんの勧誘に失敗したあたしたちはアジトに向かい歩いていた

『エリカ、気づいているか?我々はつけられているようだ』

『マジですか、…真選組?』

『そのようだ、次の角で二手に別れてやつらを撒くぞ、よいな?』

『らじゃー!』



こんなやりとりのほんの少し前

『あ、土方さん、アレ』
さっきまでパトカーの助手席でグースカ寝息を立てていた総悟が起き抜けに指差しながら呟いた

その先に居たのは桂だ
奴のとなりには…
『桂の奴、女連れですぜ、ありゃ奴の女ですかねィ』

細身の癖にやけに肉感的な後ろ姿の女

間違いない
赤根エリカだ

『チャンスだ、幸い奴は俺たちに気づいてない。つけるぞ』

『へい』

感付かれないようある程度の距離を取り、気配を殺し後を追う

しばらくして先に十字路が見えてきたその時

赤根エリカがチラリと一瞬後ろを振り返った

目が、合った気がした
強烈な色香を含んだ挑発的な笑みのアイツと

呼吸を忘れてしまった

『しまった!気づかれやしたぜ』
次の瞬間、前方に居た二人が左右に散った

『逃がすか桂ァッ!土方さん、アンタは女を!』

『上司に命令すんなッ!』
とは言いつつも総悟の言う通りに俺は赤根エリカを追った

人混みの合間をスルスルすり抜けて駆けていく奴の様は軽快でたまにこちらの様子を窺うようにチラチラ振り返る
この状況を楽しんでいるとしか思えない態度に苛立ち心に余裕が無くなっていた

てか、あいつどんだけ足早いんだよっ!
全力で走っているはずなのにぜんぜん追い付けない
むしろ離されてないよな…コレ

『鬼の服長さ〜ん、こっちだよ〜』
余裕綽々の赤根エリカは振り返り俺に声をかけてから路地に逃げ込んだ

『チッ…嘗めやがって』

俺は奴を捕まえたい一心で素直に後を追いかけた
それが奴の罠とも知らずに

角を曲がった先は行き止まり
その先に奴は居た

やっと追い詰めた

奴からしてみれば絶体絶命のピンチ
それなのにどうゆう訳か赤根エリカはうっすら笑みを浮かべている

『観念しやがれ、もう逃げ場はねぇぞ』
手錠を手に一歩前に踏み出した

その瞬間

視界が反転した

ビルとビルの隙間から見える狭い青空を見上げていた

…俺、転んだのか?

『アハハ!スゴいスゴい!バナナの皮ってホントに滑るんだね!』
楽しげな赤根エリカの声

てゆうか何?俺、バナナの皮に滑って転んだわけ?

まだ寝転んだままの俺をしゃがみ覗き込む赤根
狭い空があいつの顔で見えなくなった

『今日も楽しませてくれてありがとう、また遊んでね』
ひらひらっと手を振り、立ち去ろうとした赤根


無意識に伸ばした手が
奴の細くて白い手を掴んでいた



『…捕まえた』




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