目には目を



なんなんだ、この状況

馴染みの定食屋にたまたま居た女

万事屋との意地の張り合いに何故か参戦して三つ巴の喧嘩になって

決着は付かなかったが腹が満たされたことに満足して店を出た

…が、

後をついてくる踵の高い女物の下駄の音


あの女がさっきからずっと後ろを歩いている

たまたま方向が同じかと思い気にしていなかったが…

タバコ屋、公園で一服、しまいには…

『さっきから何なんだよお前』
厠を出たとこで女が待ち構えていたことにたまらず突っ込んだ

目下にある上目使いな女の顔
にちょっと萌えた
(いや、なに?萌えって何!?)

『貴方に用があったから』
少々厚めのその唇が発したその声には聞き覚えがあった

どこで聞いたかは思い出せないが

定食屋にいるときからずっと気になっていた

けれど女の艶やかな印象的な顔立ち、会っていたら覚えていそうなものだがちっとも思い出せない

ならば、一体どこでこの声を聞いた?

『ッつーかお前なんなの!?何で俺の股間ばっか見てんだよっ!?』
大きく円らな瞳は間違いようがないくらい俺のその辺を見つめていた

『だから、用があるの。貴方に』
と、指を指した先はやはり俺のその辺で

なに、これ!?逆ナン〜ッ!?
しかもあからさまに体目当て!?
もしかして痴女?
しょっぴいていいのか、これ

にっこりと笑みを湛えた女はゆっくり近づいてきた

『…何だよ、こっちの厠は男用なんだけど』

鬼の副長と呼ばれる土方十四郎が、こんな細身のただの女に臆して後退りしてるなんて…

言えねぇ!
間違っても総悟には言えやしねぇ!

女は厠の中まで入って立ち止まり口を開いた
『小さい頃からお父さんに言われてたのよ』

『は?』

言葉を紡ぎ出す女の厚めの唇
その淡いピンク色のそれを見ていたら何かを思いだしかけたが…

『やられたらやり返せって、ね』

直ぐに吹っ飛んだ

股間に走った衝撃
女の膝蹴りがもろに入り、男にしかわかるまい地獄の苦しみが俺を襲った

『〜〜〜ッ(涙)!』
こ、こ、コイツ!
何してくれてんだァァァ!

苦しむ俺の姿を見下ろす女
見るからに楽しそうな表情で

『目には目を、オッパイにはお〇ん〇んを…ってね』

はぁ?

『仕返しはしたからね、鬼の副長さん』

その言葉に俺の脳が覚醒した

『お、思い出した!…お前ッ!』
桂を助けに来たオバキューの中に居た奴だ!

『あたしの名前は赤根エリカ、以後お見知りおきを』
そう言って女は軽快な足取りでその場を後にした

見えなくなる前に一瞬見えた弧を描いた桃色の唇は、確かにあの日の女のものと同じだった



夕暮れの公園の男子用厠
取り残された俺と言えば…

『赤根、エリカ…』

男の苦しみは何処へやら

彼女の仄かに甘い残り香の中
放心したように座り込んでいた

何かが始まる音がした





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