十人十色



『そこのお兄さーん、寄ってかない?いい娘いるよー』

繁華街のど真ん中で呼び込みをしている桂さん

妙に様になってるこの姿

指名手配犯がこんなに堂々と顔を去らして風俗店の呼び込み
流石、肝が据わってるとしかいえません

『これも攘夷活動の一貫?』

『まさか。攘夷活動の資金繰りだ。活動にもいろいろと金がかかるのでな』

こうしてる間はあたしは暇だ

お腹も減っている

『小太郎さん、あたし散歩してくるね』
『うむ、くれぐれも気を付けるのだぞ!知らないおじさんについていっちゃ駄目だぞ!』

かぶき町は昼間もわりと活気がある

夜の華やかさとは違って、素朴で温かい感じ

夜のにぎやかなかぶき町も好きだけど、あたしは昼間のかぶき町も好き

『いらっしゃい、エリカちゃん。久しぶりだね』
馴染みの定食屋さんに顔を出せば迎えてくれる笑顔

『ご無沙汰でした、親父さんいつものね〜』
軽快な足取りでカウンターに腰をかけ、何の気なしに横を見た

隣に座るわたあめみたいな頭の男の人

ものすごく険しい顔をしている

『お前さ、俺のストーカーか何か?なんで俺の行く先々に現れるわけ?』

隣の人を睨み付け、吐き捨てるように言った

あらあら、揉め事?

相手はどんな奴かと興味が湧いて、身を乗り出して覗き込んだ

『そりゃ此方の台詞だ、何で非番の日にテメェの不快な面拝まなきゃならねぇってンだ』
着流し姿の鬼の副長さん、発見

オフの日も怖い顔だ

『世間的に不快な顔って言うのはお宅の顔みたいなのを言うんだよー、しらないの?』

『いーや、テメェの間抜け面の方が不快だね、間違いねぇ』

いい大人が子供みたいに押し問答を繰り返してる

男っていつまでたってもおバカでガキなんだから

『そんなに言うなら聞いてみようじゃないの、世間の声を』
『望むとこだ』

ぼんやり眺めてたらものすごい勢いで二人が振り向いた

『『そこのあんたァッ!』』

今のあたしは例えるなら豆鉄砲を食らった鳩
ものすごい形相の二人のお兄さんに迫られて後退りしたい勢いですが

『『どっちの面が不快かこのバカにハッキリ言ってやれッ!』』
二人の男が奏でるむさ苦しいハーモニーが店中に響き渡った

どんだけ仲がいいのアンタら
喧嘩するほど仲がいいってやつですか?

あたし的には、別にどっちも不快じゃ無いんだけどな…
答えに困って居るところに鶴の一声

『へい、おまち!』
各々注文の品がカウンターに並ぶ

マヨネーズてんこ盛りの丼と宇治金時てんこ盛りの丼

『うぇッ…、なにそれェ』

『『何って…』』
マヨネーズ丼/宇治金時丼

…いや、それは見たらわかる

『お前、彼女引いてンぞ〜!よくそんな犬の餌が食えますね〜って顔してるわ』

『いーや、テメェの丼に引いてンだ!そんなゲロみたいなもん食べてンじゃねぇよって顔だ』

再び始まる子供の喧嘩
犬猿の仲って言葉がふたりにはぴったりじゃないか

胸ぐらを掴み合い、今にも一触即発な二人言ってやった
『言っとくけど世間的にはどっちもグロテスクだから』

おとなしくなった二人はほっといてあたしは自分の丼を食べ始める

『…そうゆうアンタの丼』
『それ、なに?』

当の二人はあたしの丼を指差して問いかけた

『たまごかけご飯』

『ショボいな!』
『そんなもん定食屋で食うもんじゃねぇだろ!』

『煩いなぁ、生ゴミ食べてる奴等にとやかく言われたくない』

『『何だとコラァッ!』』
『なに?やるっての?』

気がつけば三つ巴の喧嘩になっていた


定食屋の親父は満足そうに頷きながら呟いた
『みなさん仲がいいですねぇ』

…何処が!?


仲良きことは美しきかな






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