アフターファイブ



『お妙さぁぁぁんッ!』

『あらやだボーイさん、ゴリラが紛れ込んでるみたいよ』

自分の上司が女にグーで殴られ足蹴にされる姿
そんなものを見慣れてしまう日が来るなんて、武州から出てきたばかりの頃は夢にも思わなかった筈だ

近藤さんに付き添いスナックすまいるにやってきた俺は入店早々深くため息をついた

そんな俺にボーイが近づいてうかがいたてる
『土方さん、ご指名は?』

俺は近藤さんみたいに目当ての女がいるわけでもないし、ご機嫌とりする女の横で飲みたい気分でもなかった
『俺は一人で飲むからいい、焼酎ロックで頼む』

キャバクラにきて一人で飲むなんてどうゆう了見だ
そう言われてもおかしくない客だがボーイはかしこまりましたと恭しく頭を下げ俺をカウンターへと案内した

ちびちびとグラスを傾けながら背後の騒がしい声に耳を傾ける

『お妙さん、今日は一段と美しい!』
『ありがとうございます、近藤さんも相変わらずゴリラですね』

『………』
毎度あれだけコケにされてもめげない近藤さんをある意味尊敬する

打たれ強さなら右に出るものはいない

キャバクラでそれを発揮する必要は無いのだが

『土方さん、おかわりお持ちしましょうか』
気がつけばグラスは空になっていてボーイがやって来ていた

『あぁ、頼む』
グラスを待つ間、口寂しさにタバコをくわえた
しかし肝心なものが見つからない
火、だ

ボーイにライターを貸してもらおうと顔を上げたらカチッと音がして視界の端に火が揺らめくのを見た

いつの間にか隣に座っていた女がライターに火を灯し待ち構えていた

全然気がつかなかった

『火、ほしかったんでしょ?』
『あぁ、済まねぇ…』
艶っぽい女の声に促されタバコに火をつけようと顔を近づけたその一瞬、バッチリ目が合った

見覚えあるぱっちりとしたつぶらな瞳
というか、数日前に会ったばかりの…

くわえていたタバコがポロリと口から落ちた

『どうしたの、副長さん?タバコ落ちたよ』
目の前には先日取り逃がした赤根エリカが着飾った姿で座っていた


また、逢えたね





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