look at me



『………』

晋助サンに群がる遊女たち

『晋助はんったら今夜もいい飲みっぷり〜』
『あたしにも注がせて〜』

ちょっとベタベタしすぎじゃありませんか


『おめェには詰まらねぇ所だ』
それでもいいから一緒に連れてって!と駄々をこねたのはあたし

でも
こんなとこ見なきゃいけないんだったら…


来なければよかった


『全く手を付けてないでござるな』
いつの間にか隣に座っていた万斉サン

あたしの膳をみて心配そうに様子を窺ってきた

いつもなら人一倍食べるあたしがこんな高級そうな料理を前に一切手を付けていないのだ
それは心配になりますよね

あたしも不思議だ

目の前の光景を見ていると胸の辺りがムカムカして食事どころじゃないのだから

『…無理もない、吉原は女性にはつまらない場所でござろうな』

あたしは何も言えなかった

万斉さんは直前まで止めようとしてくれてた
それを押しきって無理矢理着いてきたあたしに文句を言う資格はない

『晋助はん、今日も三味線聞かせて〜』

三味線?
今日も?
いつもこんなとこで弾いてるの?

あたしだって一度も聴いたことないのに


ガシャン

不本意ながら勢いよく立ち上がった時に立ててしまった大きな物音

集まる視線

『…お手洗い、どこですか』晋助サンを独り占めしたくてもそんな勇気も術もない

見ていられないから逃げ出すしかないあたしは恥ずかしいくらい子供っぽい

ふらふら宛もなく廊下を歩いた

どの部屋からも酔っぱらい満足げな笑い声や媚びた女の声が聞こえてくる

何が楽しいのかな

あたしはちっとも楽しくない
こんなとこ、来なければよかった

吉原を一望できる色んな意味で高い遊郭

この綺麗な眺めを楽しむ人なんてここに居るんだろうか

人気の無い階の大きな窓辺に腰を下ろしたエリカは小さく呟いた

晋助サンのばーか
あたしを一人にするなよ

『馬鹿はおめェだろ』

返ってくるはずの無い返事に驚きバランスを崩し、危うく窓の外へ落ちてしまうかと言うところを伸びてきた腕に支えられた

『晋、助サン…』

『ほんと鈍くせェなおめェは』

『…何してんです?こんなとこで』

だって今頃お楽しみの筈でしたよね

『おめェが一人でどっか行くから迎えに来てやったんだろーが』

『あたしは大丈夫。みなさん、待ってますよ』
心配してくれたのにこの態度

『なに拗ねてやがる』

言ったところで何が変わる?
虚しくなるだけよ
それでも喉の奥から出てきた思いを止めることは出来なかった
『どうしたらあたしを見てくれますか?』

階下の喧騒が耳にまとわりつく

早く、早く
いつもみたいに適当に流して


『さァな』
フンと鼻で笑い飛ばされた

…晋助サンのばーか

身を翻し、その場を後にする

『正解は自分で探せや、ソイツは俺にもわからねェ』
振り向き様に見せた笑顔がどうしようもないくらいかっこよかった

ぼんやり遠ざかってく後ろ姿を見つめていたら

『…置いてくぞ』

『あ!ま、まってください』

気のせいかな

追いかける背中
今日はいつもより少しだけ近く感じた



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