run up!



『また子ちゃん!』

呼ばれて振り向けば身の丈と変わらない大刀を引きずり歩くエリカ

『何スか、それ』

『何って…何が?』

大刀といってもエリカの体が小さいからそう見えるのだろうが…それにしても不釣り合いだ

聞けば此れからその刀で武市先輩に稽古をつけてもらうらしい

気になって様子を見に行ったら…
案の定四苦八苦しているようだった

武市先輩の指導のもと、刀を振るっているのだが
どうみてもエリカの方が刀に振り回されているように見える

『…やはりエリカさんにはその刀、大きすぎますね』
見るに見かねた先輩が呟いた

『そうッスよ、エリカには脇差しくらいで十分ッスよ』

『子供扱いしないでよ、あたしだってこの位…』
そう言って振り上げた刀が上手く支えられず先輩の足元スレスレに下ろされた

『ほら!見るッスよ!満足に使えてないじゃないッスか!』
『そんなこと無いよ!これから鍛えていけば…』
『その様子じゃ満足に使える頃には武市先輩は細切れっすよ!』
『……ッ!また子ちゃんの意地悪〜』

最近恒例にもなりつつある小さな口喧嘩

背伸びをしているエリカが可愛いけれど危なっかしくてつい口を出してしまう

得体の知れない女なのに
ほんの数日で鬼兵隊に溶け込んで

それがエリカの特質

憎めない無邪気な笑顔

晋助さまもそんなエリカに惹かれたッスか?


『高杉さんが戻られたぞー』

仲間の声に脱兎の如く駆け出すエリカ

『あ、待つッスよ!!』
普段はどんくさい位のエリカは晋助さまの事となるといつも見せないくらい俊敏だ


『お帰りなさい晋助サン』
『あぁ』

煙管を吹かして悠長に歩いてくる晋助さまに駆け寄る忠犬
エリカのそんな姿にまわりは和やかな雰囲気なる

これも今や恒例になっている光景

『……おめェ、なんだ?それは』
何を思ったか晋助さまは立ち止まりエリカの姿をしげしげと眺めている

『どうしました?』
見つめられて頬を染めるエリカ
もじもじと着物の裾を指で遊ばせる姿はやっぱり可愛らしい

『…ずいぶん立派なもん持ってるじゃねぇか』
エリカの持ってる刀を指して晋助さまは笑った

『今、武市サンに習ってたトコなんです。上達したら晋助サンの護衛はあたしに任せて下さいね!』

刀に振り回されてるような奴が…随分と大口叩いたもんッスね

その自信が何処から来るのかわからないがエリカは胸を張って言ってのけた

『ククッ、随分言うようになったなァ…でもよォ』

晋助さまはエリカの刀を取り上げ
『おめェには此くらいが丁度いいだろ』
自分の腰に差していた脇差しを手渡した

『……!』
晋助さまの行動に目を丸くするエリカ

エリカのことだから晋助さまにも食ってかかるかと思いきや、部屋に戻られる背中を見つめて動かない

『…エリカ?』

『…貰っちゃった』
ゆっくり振り返ったエリカは
これ以上の幸せはないわって言わんばかりの嬉しそうな顔

『あたし…頑張る!』
そう言い残してエリカは武市先輩の元へ駆けていった

また子が同じようなこと言ったときはむくれてたのに…

『現金な奴ッスね…』

それでもなんだか憎めない

彼女は
良きライバル



『えい!やぁ!たァァァ!』

掛け声と共に聞こえてくるのは物が壊れたような音と武市先輩の悲鳴というか呻きというか…

脇差しになっても
エリカの上達にはしばらくかかりそうッスね…





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