alone

あたしの両親は京で小料理屋を経営していた

大きな店ではなかったけれど明るい人柄の父と穏やかで優しい母の回りにはひとが集まってくる

店はいつも賑やかだった

ある日、馴染みのお客さんの結婚式に呼ばれ出掛けていった両親

『いい子で留守番してるんだぞ』

『もう子供じゃないんだから、留守番くらいフツーにできるってば』

『おみやげ、楽しみにしててね、行ってきます』

何気ない会話
いつもと変わらないやり取り

それが最期の言葉になるなんて誰が思っただろう

二人が戻ってきたのは真夜中

信じられないくらい冷たい体で

いくら声をかけても
その手を握っても

ピクリとも動かない二人
もう二度と目を冷まさないなんて嘘みたいだ

眠っているだけのようで
待っていたらいつもみたいに『おはよう』って笑顔で言ってくれるんじゃないかって


いつまでもあたしは
その場から動けずに居た


『エリカさん、泣いているの?』
声をかけられ驚いた

ミツバさんが戻ってきたのも気づかないくらいボーッとして居た自分に

そして、涙を流していた自分に

『ごめんなさい、昨日見た映画のこと考えてたら感極まっちゃって…』
あからさまな嘘で誤魔化して急いで涙をぬぐった

『あらあら、ダメよ擦っちゃ。赤くなってしまうわ』
さりげなくローションティッシュを差し出してくれたミツバさん

ありがとうございます…

あたしの涙にツッコまないでくれて


『あら、銀さんは?帰ってしまったの?』
ミツバさんの残念そうな顔

『いえ、なんか山崎さんがいたんで話があるとかで屋上に』

『そう、良かった』
笑顔を見せたミツバさんはコホコホッと小さく咳き込んだ

『大丈夫ですか?ちょっと横になった方が…』

『大丈夫よ、こんなに楽しい日を送ってるの久しぶりなの、もう少しだけ』

夕陽をバックに振り返ったミツバさんは眩しいくらい綺麗で

だけどどこか悲しげで

あたしはなにも言えなかった

武州では一人暮らし
たった一人の家族も親しい人たちも皆江戸で離れて暮らしていたわけだから

寂しかったんだろうな

こうして誰かとくだらない話で笑い合えるなんてなかなかなかっただろうし…

『…さっきは、総ちゃんがごめんなさいね。あんな態度で』

『…いえ、あたしは別に…』
ちょっと怖かったけど

困ったように笑うミツバさん
『昔から十四郎さんのこととなるとああなるのよ、張り合ったり喧嘩したり…』

十四郎さん
そういや彼のしたの名前で呼ぶ人は他に居ない

そう呼ぶミツバさんはとても自然で、むしろ穏やかで

やっぱり
ただならぬ関係だった説が濃厚になってきた

女の勘は当たるのよ、銀さん!

けれどそれと同時にやるせない気持ちが芽生えた

ミツバさんは今も土方さんが好きなのでは?

でも、江戸で違う相手と結婚する


『ミツバさん、…今、幸せですか』

唐突な質問にミツバさんは目を丸くしていた

それでも笑顔でこう言った


『幸せよ、とても』

何故だろう

その答えに胸が苦しくてしょうがなくなった


『エリカさんは?幸せかしら?』

『…あたしは、』

答えられなかった

自分で聞いたくせに

幸せの意味なんてわからなかったあたしの両親は京で小料理屋を経営していた

大きな店ではなかったけれど明るい人柄の父と穏やかで優しい母の回りにはひとが集まってくる

店はいつも賑やかだった

ある日、馴染みのお客さんの結婚式に呼ばれ出掛けていった両親

『いい子で留守番してるんだぞ』

『もう子供じゃないんだから、留守番くらいフツーにできるってば』

『おみやげ、楽しみにしててね、行ってきます』

何気ない会話
いつもと変わらないやり取り

それが最期の言葉になるなんて誰が思っただろう

二人が戻ってきたのは真夜中

信じられないくらい冷たい体で

いくら声をかけても
その手を握っても

ピクリとも動かない二人
もう二度と目を冷まさないなんて嘘みたいだ

眠っているだけのようで
待っていたらいつもみたいに『おはよう』って笑顔で言ってくれるんじゃないかって


いつまでもあたしは
その場から動けずに居た


『エリカさん、泣いているの?』
声をかけられ驚いた

ミツバさんが戻ってきたのも気づかないくらいボーッとして居た自分に

そして、涙を流していた自分に

『ごめんなさい、昨日見た映画のこと考えてたら感極まっちゃって…』
あからさまな嘘で誤魔化して急いで涙をぬぐった

『あらあら、ダメよ擦っちゃ。赤くなってしまうわ』
さりげなくローションティッシュを差し出してくれたミツバさん

ありがとうございます…

あたしの涙にツッコまないでくれて


『あら、銀さんは?帰ってしまったの?』
ミツバさんの残念そうな顔

『いえ、なんか山崎さんがいたんで話があるとかで屋上に』

『そう、良かった』
笑顔を見せたミツバさんはコホコホッと小さく咳き込んだ

『大丈夫ですか?ちょっと横になった方が…』

『大丈夫よ、こんなに楽しい日を送ってるの久しぶりなの、もう少しだけ』

夕陽をバックに振り返ったミツバさんは眩しいくらい綺麗で

だけどどこか悲しげで

あたしはなにも言えなかった

武州では一人暮らし
たった一人の家族も親しい人たちも皆江戸で離れて暮らしていたわけだから

寂しかったんだろうな

こうして誰かとくだらない話で笑い合えるなんてなかなかなかっただろうし…

『…さっきは、総ちゃんがごめんなさいね。あんな態度で』

『…いえ、あたしは別に…』
ちょっと怖かったけど

困ったように笑うミツバさん
『昔から十四郎さんのこととなるとああなるのよ、張り合ったり喧嘩したり…』

十四郎さん
そういや彼のしたの名前で呼ぶ人は他に居ない

そう呼ぶミツバさんはとても自然で、むしろ穏やかで

やっぱり
ただならぬ関係だった説が濃厚になってきた

女の勘は当たるのよ、銀さん!

けれどそれと同時にやるせない気持ちが芽生えた

ミツバさんは今も土方さんが好きなのでは?

でも、江戸で違う相手と結婚する


『ミツバさん、…今、幸せですか』

唐突な質問にミツバさんは目を丸くしていた

それでも笑顔でこう言った


『幸せよ、とても』

何故だろう

その答えに胸が苦しくてしょうがなくなった


『エリカさんは?幸せかしら?』

『…あたしは、』

答えられなかった

自分で聞いたくせに

幸せの意味なんてわからなかった


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