ごほうび



桜も散り
木々は深緑に染まる

窓から入り込む心地よい風と共に入り込んできた賑やかな声

グラウンドを見ると銀八先生と3Zの生徒達が集まっていた

『…何してるのかな』
思わず呟くと

『球技大会に向けて特訓だそうでさァ』
返ってくるはずの無い返事に飛び上がった

思わず振り返りベッドを確認したけど誰も居ない
でも確かに聞こえた彼の声

『なにビビってんでさァ』
窓の外からひょっこり現れた声の主、ジャージ姿の沖田くん

狼狽えていたあたしが可笑しかったのかニヤリと意地悪い笑みを浮かべていた

『そりゃ驚くでしょ、誰も居ない筈なのに声がしたんだから』

そんなやり取りをしてる間にグラウンドに居た3Zのみんなはトラックを走り始めていた

『ところで、3Zはみんなで何してるの?』

授業、ではない
指導しているのは国語の教員である坂田先生だもの

『球技大会の練習でさァ』

『そっかぁ、もうすぐだもんね』

銀魂高校の球技大会は5月の中旬頃、一番最初の行事だ

『3Zは気合い入ってるのね、体育の授業意外で練習するなんて』

『気合い入ってんのは銀八だけでさァ、なんかしらねーけど3Zが全種目制覇したら給料が上がるらしくて』

なるほど
だから体育教員でもない銀八先生があんなに熱心に指導してたんだ

『巻き込まれるこっちははた迷惑ってもんでさァ』

沖田くんは他人事みたいに走らされるクラスメートを見つめながら呟くとプゥ〜と風船ガムを膨らませた

『沖田くんはいいの?みんなと練習しなくて』

『眠い、先生、ベッド貸して』
アクビを一つした沖田くんは開かれた窓から侵入しようと身を乗り出してきた

『あっ!コラ〜ッ!』

『沖田ァ、なにやってんだてめェは』
グラウンドからくたびれた白衣を靡かせて気だるそうにやって来たのは銀八先生

『何って…、昼寝』
『馬ァ鹿、てめェそんなのはわかってるよ』
そして窓の縁に身を乗り出していた沖田くんを引きずり下ろしゴツンと頭にゲンコツを落とした

『クラスが一致団結しようってときにてめェは何サボってんだってことだコノヤロー』

『だってやる気が起きません、頑張ったって得すんの先生だけじゃねェですかィ』

『お前は何言ってんだ、みんなでひとつの目標に向かって突っ走ることに意味があるんだろうが!友情・努力・勝利だコノヤロー』
頑張ることの意味を熱く語る銀八先生だけど

『先生、目がお金になってます』

『エリカ先生、それはあなたの気のせいだ』

『気のせいなんかじゃねーよ、だから嫌なんでィ。俺にとっちゃなんの張り合いもない』

膨れっ面の沖田くんが呟く
まぁ、彼の気持ちもわからなくもないけど

『だったら沖田くんにもごほうびがあればいいんじゃないですか?』

『…えぇ、ごほうびって』

渋い顔になった銀八先生に相反してパァと明るい表情になる沖田くん

『それなら頑張る気が起きるってもんでさァ、…なんも無いなら球技大会もサボろっかな〜』

『…チッ、担任を脅迫かよ。でも、馬鹿なお前でもスポーツは人並み以上だ。居ないと勝てるもんも勝てねぇし』

銀八先生が一つ、大きなため息をついた
沖田くんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた

『しゃーねぇ、特別だぜ?何がほしいんだ、言ってみな』

『弁当』

『『ハァ?弁当?』』
意表を突きすぎた沖田くんの希望にあたしと銀八先生の声が綺麗にハモった

沖田くんのことだからきっと突拍子もないことや無理難題を言い出す気がしていたから

『そんなんでいいなら先生も助かるけど』

『弁当は弁当でもただの弁当じゃダメでさァ』

『何弁当だよコノヤロー』

沖田くんはあたしを指差して言った
『エリカせんせーの手作り弁当』

『『ハァ?』』
これまた綺麗にハモった声

『…あたしの、でいいの?』
『先生のが、いいんでさァ』

『…エリカ先生、頼める?…お弁当』

『え、えぇ、それくらいなら』
『じゃあ頑張ってやりまさァ』

そして沖田くんは銀八先生とグラウンドに帰って行きました


『先生、俺は絶対に勝つ!エリカせんせーの弁当の為に!』

球技大会の男子の種目であるサッカーを一生懸命練習する沖田くんはまさに青春て感じだった

だからあたしも
腕によりをかけて
お弁当作るからね

あなたの為に頑張ります!


『玉子焼きは甘いヤツがいいでさァ』
『はいはい』

『あとウインナーはタコで』
『はいはい』

沖田くんの注文は案外たくさんで

コレは早起きしなきゃダメみたい




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