02



エリカが眠りについてからどれぐらい経っただろうか

目を醒ますと陽はもう暮れていて部屋は真っ暗
『…何も見えない』

灯りを点けようとどこにあるか分からないスイッチを手探りで探し始めたその時
足になにかを踏んだ感触があった

『え、なにこれ』
畳とかそうゆうんじゃない、なんか柔らかい…
足で探っていると

『エリカが男を踏みつけて悦ぶ趣味に目覚めたとは意外でさァ』

思わぬ声が返ってきてエリカは飛び上がった
そしてやわらかな布団の上に尻餅をついた

『うひゃあッ!そ、総ちゃんんッ!?なんでここに…』
途中まで口にしてエリカは自分が総悟の部屋にお邪魔していたことを思い出した

その横で目には見えないが身動きする気配を感じた
そしてパチッという音と共に部屋に明かりがついた

『よく眠ってたみたいじゃねーか、人の部屋で、人の布団で』
総悟に見下ろされているエリカがいる場所は紛れもなく総悟の部屋の、総悟の布団の上だった

『あはは…』

『おかげで俺は堅い床の上で寝てたってのに目が覚めたら踏みつけられてるってどうゆう事でさァ』

『うぅ…ごめんなさい』
エリカは正座に座り直し丁寧に頭を下げた

頭を下げたままのエリカの前に総悟は静かに腰を下ろした

『そんなエリカに罰を与える』
『え?』

ガサゴソと音を立て総悟は紙袋を漁っていた
昼間買ってきた駄菓子屋の袋だ

『お、あったあった』
その中からどぎつい真っ赤な小袋を取り出した

[激辛王子ハバネロくん]
そう印された、名前の通り辛そうな駄菓子

『ほんとはザキに食べさせようと買ってきたんだけどな』
ずいっと目の前に差し出されたそれはとても…

『…辛そうだね』

『ハバネロだからねィ』

『………』

『………』

無表情だが妙に圧力を感じさせる総悟
『食べろ』と言われてる訳じゃないのになんだか食べなきゃいけない強迫観念にかられエリカは真っ赤なスナックをひとつ口に放り込んだ

大の辛いもの好きだったミツバと過ごしてきた時間が長かったこともありエリカは辛いものに対する免疫は人よりある方だと思っていた
実際どちらかと言えば強い方だろう

だから激辛を売りにしたこの駄菓子もそう無理なくイケるんではないか
そんな軽い気持ちだったエリカは軽はずみにそれを口に放り込んだ自分を激しく後悔した


エリカの断末魔かのような悲鳴は屯所中に聞こえていたかもしれない


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