紅一点 01



エリカが勲に案内されたのは割りと日当たりのいい、庭に面した十畳位の和室

『ここがエリカちゃんの部屋だ、好きに使ってくれ』

『こんないい部屋、あたしが使っていいんですか?』

空き部屋、という割りには隅々まで掃除が行き届いている
それもそのはず、十四郎が権力を駆使して空き部屋にした好条件の部屋なのだ
昨日までこの部屋を使っていた退はなくなく陽当たりの悪い部屋へ引っ越した

『隣は総悟の部屋だ、安心だろ』

『うん!』
新しい生活に胸を膨らませてはいたが知らない場所で暮らすのはやはり不安だった

すぐそばに総悟がいるのは心強く肩の力が抜けたような気がした

『今も部屋でゴロゴロしてるだろう、荷物片付けたら屯所の案内でもしてもらうといい。俺は仕事あるから』

『うん、ありがとう近藤さん』

『礼には及ばんよ!今夜はエリカちゃんの歓迎会だ、楽しみにしとくんだぞぅ』

部屋に用意されていた衣装ケースに自分が持ってきた数少ない荷物を片付けるのにそう時間はかからなかった

まだ何もない部屋ではすることはなく早くも時間をもて余し始めた

『…総ちゃん、暇してないかな』


コン、コン、コン
控えめにしたノックに返事は返ってこない

『総ちゃ〜ん…、寝てるの〜…?』
そろりとわずかに開けた隙間から中の様子を覗いてみる

敷きっぱなしな布団とその枕元に漫画本があるだけで、総悟の姿は無かった

『…あ、これ、ドラゴンボーズだ』

エリカはそばに落ちていた本を拾い上げ呟いた

『一巻、有るかな』



『総悟、お前出掛けてたのか』

総悟が屯所に戻るなり勲が声をかけた
その勲もこれから出かけるところのようだ

『ちょっと小腹空いたんで駄菓子屋に行ってたんでさ』
彼の手にはお菓子がいっぱい詰まった紙袋が抱えられていた

『俺はこれからお妙さんの身辺警護に行かなきゃなならない、エリカちゃんの相手してやってくれ』
ビシッと右手を上げ颯爽とその場を去る勲の背中を見て総悟はため息をついた

『ほんと、懲りないお人でさァ』


総悟はその足で自分の隣室であるエリカの部屋に向かう

コンコン

しかし返事はない
『………寝てんのかィ』

総悟は無遠慮に襖を開けた
しかし部屋はもぬけの殻

『…居ねぇのか。どこ行ったんだよ』

んまい棒くらいだったら分けてやろうと思ったのによぅ
そんなことを思いながら自室の扉を開けた総悟は絶句した
くわえていた紐付き飴もポロリと口から落ちた

『え…?なにしてんのコイツ』
自分の部屋の、自分の布団の上で気持ち良さそうに寝てる幼なじみに思わずつっこんだ

布団の真ん中で漫画片手に小さく丸くなって寝てる姿はまるで、日だまりの猫だ

ミニスカートでそんな姿は女のやり場に困る

総悟は押し入れからタオルケットを引っ張り出し、そしてエリカにそっとかけてやった

エリカはころりと寝返りをうち、まだ気持ち良さそうに眠っている

『…なんで俺がこんな世話焼いてんでィ』
そう呟きながら傍らに腰を下ろしイタズラに鼻っ柱を摘まんでやる

エリカは少し苦しそうに眉間にシワを寄せた
それを見た総悟のくちもとが楽しげに綻ぶ

武州に居た頃もよくこうして昼寝するエリカにイタズラしたっけなァ…

『…うぅ、総、ちゃん』
眠るエリカの口から自分の名前が飛び出して思わず手を離した

起きたわけでは無かった
自分の夢でも見ているのだろうか

『…なに勝手に俺の夢見てんでィ』
文句を垂れた割りには総悟の表情が穏やかで優しげだったのを知るのは誰もいない
本人さえも自分の心を占める感情を理解してはいない

懐かしさ、それだけでは収まりきらないあったかい気持ち

彼がそれに気づくのはまだしばらく先の話

back




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -