03



『ミツ姉…』
ミツバが眠る墓の前でエリカは小さく呟いた、大きな瞳いっぱいに涙を溜めて

無理もない

武州に居た頃エリカはミツバを姉のように慕い、またミツバもエリカを妹の様に可愛がっていた

ミツバの縁談がまとまった時は、離れたくなくて素直に喜べなかったエリカ
しかし江戸に向かう汽車に乗り込んだミツバのしあわせそうな笑顔を見て涙ながらに言ったひと言

『絶対しあわせになってね!』

窓ガラス越しに応えたミツバの笑顔

これがふたりの最期の会話だった

『ミツ姉、しあわせだったかな…』
再会したときの様子からは想像も付かない程にか細く弱々しい声

今にも泣き出しそうに震えている肩

『幸せだったって、最期まで笑っていたよ姉上は』
いまでも鮮明に思い出せる姉の笑顔
それは半年近く経った今でも色褪せることのない記憶

『…そっか、それなら、安心だよ』
震える声が今度は鼻声に変わる
グスンと鼻まで啜っていた

泣き虫なくせに人前では絶対に涙を見せようとしない、弱いのに強がりな性格

…なんも変わってねぇんだな

総悟は慰めの言葉もかけず静かにその場を後にした

回りを気にせず、思いきり泣けるように

『ドS王子が、ずいぶん優しいじゃねーの』
『旦那、まだ居たんですかィ』

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた銀時の冷やかしをサラッと受け流す総悟

『まぁ、とりあえず礼は行っておきやす。エリカが世話になったみてぇだから』

『お前って、冷やかし甲斐が無いのな。まぁお礼はそれなりの形にしていただかないと受け取れません』

『エリカから貰った饅頭でちょうど釣り合いまさァ』

『あ、それもうバレてんの』

しょうもない言葉のキャッチボールを繰り広げていると真選組なパトカーが二人の側に物凄い勢いで突っ込んできた

中から不機嫌そうな面をした男が出てきた
彼もまた物凄い勢いで

土方十四郎、真選組鬼の副長と呼ばれる男

『土方さん、ずいぶん早いじゃねぇですか。さっき連絡したばっかなのに』

『…アイツは?どこにいる?』
総悟の声が届いていないのか、そうひと言呟いただけで彼はキョロキョロあたりを見回し始める

『エリカならまだ姉上の墓に手を合わせてまさァ』
『…そうか』
目当ての人物が側に居るとわかり若干表情が弛んだ

『なになに?あの子沖田くんの彼女じゃなくて大串くんのだったのぉ?大串くんああゆう子が好きなんだ〜へぇ〜結構面食いなんだねぇ〜』
新しい冷やかしターゲットを見つけた銀時は目を細め嫌らしい口調で十四郎に絡む

『黙れ万事屋。そんなんじゃねぇ、そのにやけ顔をやめろ。腹立つ。』

銀時を一瞥しタバコに火をつけ煙を吸い込んで、十四郎はピタリと動きを止めた
『…っつーか何でてめえがここに居んだよッ!』

『なんやかんやあって気づいたらここに居た』

『そのなんやかんやを聞いてんだよ!』

顔を合わせばケンカする、犬猿の仲のふたり
今日も今にも火蓋が切って落とされそうな状態

『副長、まぁ落ち着いて』
パトカーから降りてきた地味な男、真選組監察方の山崎退

『うるせェ、てめえは黙ってろ』
『へぶしッ!』
止めにはいった退だったが返り討ちに遭いその場にしりもちを付いた

その荒れた空気を一新する一声がした

『総ちゃんお待たせ〜』
少しだけ目を赤くしたエリカが戻ってきた

『エリカ!』
十四郎が叫ぶとエリカは振り向きこう呼んだ

『お兄ちゃん!』



『『お…、お兄ちゃんんんッ!?』』
エリカの呼び声に驚き二人を交互に見比べたのは銀時と退の二人

『てめーら何驚いてんだよ』
エリカの横で険しい表情になる十四郎

『だって副長に妹とか初耳ですよ!』
『つーかマジで妹?ありえないありえない、大串くんの妹じゃないよこの子は』
銀時の意見にそうだそうだと同意する退

『何でだよ!エリカは正真正銘俺の妹だァァァッ!!』

墓地に相応しくない十四郎の声が辺りに響き渡ったのだった


似てないふたり


『無理もないでさァ、全然似てないんですから』
『そんなに似てないかなぁ』
『そりゃもう、全然』

総悟とエリカは少し離れた所から成り行きを見守っていた

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