03 卵焼きハンター



『…はぁ』
お弁当の包みをほどきながらエリカは小さくため息をついた

『あら、エリカちゃんたらため息なんて』
ニコニコと笑顔で気遣う向かいに座る志村妙

ひとつの机を囲んでみんなでお昼ごはん
このひとときは学校で一番楽しい時間

『仕方ないアル!あのサド野郎にちょっかい出されてエリカは疲れてるネ!』

『…うん、まぁ、そんな感じで』

席替えをしてから先生に目を付けられた、そんな気がする

沖田くんの子供っぽい挑発についつい乗って注意され続けてる

『散々だよ〜』
エリカはため息混じりに呟いた

『ガキっぽい挑発に乗ってくる奴もガキだってこと忘れんじゃねーやィ』

『ぎゃああッ!』
背後から現れた焼きそばパンに飛び上がったエリカ

もちろん、その焼きそばパンの持ち主…というかくわえ主(パンは既に彼の口の中)はお隣さん

『出たなサド野郎!何しに来たアル!』
『エリカの隣が俺の席なんだからしょーがねぇだろ』
敵意むき出しの神楽に総悟はお構い無しにエリカのお弁当を覗き込んだ

『なぁに?なんか狙ってるの?』
エリカは総悟からお弁当を守るように自分の元へ寄せた

『まぁな、なんか美味そうだと思って。さすがエリカの母ちゃんだな』
お弁当を隠され舌打ちしながら総悟は自分の席に腰を下ろした

『…違うよ』
今度は逆にお弁当を見せつけるように広げたエリカ

そして言った
それはもう誇らしげに

『全部あたしが作ったんだから』
よほど自信があったんだろう
ふんぞり返りながらのどや顔

いつもなら意地悪なお隣さんにいろいろと突っ込まれそうなシチュエーション

『………』
ところが総悟は焼きそばパンを頬張りながらそのお弁当を穴が空くほど見つめていた

そしてゴクンと飲み込んだその瞬間、瞳が妖しく光った、そして次の瞬間には…

隣から伸びてきた手に卵焼きを奪われた
『あっ!』というまに卵焼きは総悟の口の中

『ちょっとォォォッ!卵焼きはあたしのとっておきだったのに!最後のシメにするつもりだったのに!』

エリカの猛抗議から逃げるように総悟は教室を飛び出した

そして扉の影から顔だけだしてニッと笑みを浮かべた
『たしかに、シメに相応しく美味かったでさァ。いい嫁さんになれまさァ』

嵐のような総悟が去った後
彼が居なくなった扉の方を見つめたまま動かないエリカ

『…エリカ?どうしたアル?そんなに卵焼き食われた事が無念アルか?』

『…えっ!?』
心なしか動揺しているエリカ

『顔、赤いアル。頭に血が上るほどぶちギレたアルか?』

『えっ!?いや、大丈夫!べべべつに美味しいって言われて嬉しかった訳じゃないからッ!』
その動揺を誤魔化すみたいに残りのお弁当を掻き込んだ


ほんと、
嬉しくなんてないんだから



『エリカちゃんたら、素直じゃないんだから』

『いや、べつに、違うから!卵焼きが無念なだけで…』

『だったらわたしの卵焼き、あげるわね』
『え…』
エリカのお弁当箱の卵焼きがあったところに真っ黒い物体X

『…ありがとう』
(あとで近藤くんにあげよう…)




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