01 お隣さん



『はい、ちゅうも〜く』
教壇に立った担任、坂田銀八が気だるそうにやって来た

『今日のLHRは席替えな〜』
銀八のひとことでわずかにどよめくクラスメート達

ソレもそうだ
今は7月に入ったばかり
新学期どころかもう夏休みが控えてる時

席替えといえばフツーは新学期にやるものだ

『うるせーぞくそガキども、先生がやるって言ったらやるんです』

有無を言わさずくじを引かされていく生徒たち
エリカも残り少なくなった箱の中から一番最初に触れた紙をひいた


『エリカはどこアルか〜?』
今まで隣だった神楽がエリカのくじを覗き込むようにして聞いてくる

『えっと…7番みたい』
『7番は…何処アル?』

二人揃って黒板に乱雑にかかれた座席表を確認すると…
エリカの席は一番うしろの窓際、その隣だった

『あそこみたいネ、ちくしょーエリカとは離ればなれアル』
神楽はちょうど真ん中の席

『そっかぁ、残念。でもお昼は一緒に食べようね』
『もちろんアル!』

神楽と離れたことは残念だけど引き当てた席には満足だった
一番後ろはわりと気楽だからだ

でも欲を出せば…
窓際が良かった一番後ろの窓際、そこは教室の楽園だ
ちょっと大袈裟かもしれないけれどエリカにとっては一番いい席だった

この特等席に座る幸福者は一体誰なんだろう

『羨ましいな、代わってくれないかな〜』
『無理な相談だぜィ』
思わず呟いた独り言に帰ってきたのはダルそうな声

声の主はドカッと横柄に教室の楽園に腰かけた

『ここ、沖田くんだったんだ』
『そうでィ、羨ましいだろ』
甘いマスクに嫌味な笑顔を浮かべる沖田

それには多少イラッとしつつも素直に答えた
『うん、羨ましい。だから代わって?』

『やだね』
プイッとそっぽを向いた沖田の口からフーセンガムが膨らんだ

『いいじゃん!あたしずっとそこの席に憧れてたの!念願なの!』
望みは薄いがエリカは必死で食い下がる

ヒートアップするエリカと対象的に抑揚の無い冷めた声で沖田は言った

『俺はエリカよりもこの席に憧れてたんでィ、とゆー訳で諦めなせぇ』

な、な、なんですと?

『あ、あたしなんて入学したときから狙ってたんだよ!』

張り合って口を飛び出すでまかせも

『俺はこの高校受験するときからもう虎視眈々と狙ってたんでさァ』

沖田はそれのさらに上をいく

『そんなわけあるかァァァッ!』
『それはこっちのセリフでィ』

まさに一触即発
そんな二人に割って入った鶴の一声

『そこー、うるせ〜ぞ。イチャコラしてねぇで話きけー』
心底めんどくさそうな銀八だ

『へーい』
『はーい、ってかイチャコラなんてしてませんけど!』

『わかったわかった、いいから聞けよー』

…心外な!
と憤りながらも反論の言葉を喉の奥に押し込んだ

『ま、騒々しくなっちまいやしたが気をとり直して…』

沖田はポケットに突っ込んでいた手を差し出した

『よろしく』
よく見たらその手には板ガムが握られていて…

『…こちらこそ、よろしく』
そういいながらそのガムを一枚いただこうとしたら…

バチン
指先に走る小さな痛み

何かと思ったらガムにクリップみたいな仕掛けがついていた

これってまさか…
昔なつかしのイタズラグッズ…?

『ひっかかってやんの』

ニヤリとほくそ笑む沖田にエリカは腹の底から大きな声でお返しを

『バカァァァッ!』
おまけに一発左ストレート

このあともちろん二人でお説教




教室の楽園のとなりの席は

なんだか騒がしくなりそうな予感がしました



 


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