一心不乱な恋心
『…はぁ?』
スナックお登勢で一杯やっていた銀さんはすっとんきょうな声をあげた。 目の前の女、お登勢でバイトをしているエリカが理解不能な事を言ったからだ
『俺…なんか耳おかしくなったかな…、良い耳鼻科知らない?』
『銀さん、耳そうじしてます?耳クソつまってんじゃないですか?』
『エリカちゃん…、カワイイ娘がクソとか言っちゃダメだろーが』
『銀さんが人の話をちゃんと聞いてくれないからです』
銀さんは聞いてなかったんじゃなく、理解できなかっただけなのになぁ…
『だってよ…、ブスッ娘クラブで働きたいとか…普通ありえないでしょ』 グラスのビールを飲み干してエリカの前に差し出した
『…何でですか?人がどこで働こうが勝手じゃないですか』
空いたグラスにビールを注ぎながら、不満げにぷうっと頬を膨らませたエリカをみて銀時は首を振った。
『だめだめ、そんな顔すら可愛いから。そうゆう子はブスッ娘クラブには向いてない、ここで銀さんの相手してればいいから』
可愛いと言われて不機嫌になる女が居るだろうか…エリカの眉間には深くシワが刻まれて、回りにはどす黒いオーラを醸し出しているかのような…
『なんでもエリカの惚れた男ってのがブス専って話なんだとさ』 煙草を吹かしてババァが話に加わってきた。
『ハアアアッ!?』 ブス専…?何か頭の中で誰かが浮かんで来たんですけど…
『オマケに忍者って話だろう?雇われの身で居場所もハッキリしないとかで…』
『ちょっと待てェエエッ!エリカちゃんの好きな奴って磯村くんッ!!?…痔で…ジャンプな…あの…』
ほろ酔い気味でほんのり赤かったエリカの頬が重ねて赤く染まっていった。
…マジかよ
『吉原に知り合い居るんでしょ?お願いだから紹介してよ!ブスッ娘クラブで働きたい娘が居るって!』
胸ぐらを掴んで必死に訴えてくるエリカ、怒ってんだか泣きそうなんだかわかんねぇ表情が崩れた顔…
フツーに可愛いから
ブスッ娘クラブには…ってゆうかアイツには勿体ねェエエッ!
『ダメだ!諦めろ!危険すぎる!』 ブスッ娘たちの中にこんなかわいい娘を入れてみろ、絶対に苛められる!継母たちに虐められるシンデレラのように!
『わかりました!じゃあ整形します!素敵なブスッ娘になれば良いんですよね!』
『素敵なブスッ娘ってのがイマイチ解らないんだけど…って早まるなァアアッ!』
この時間じゃ開いてる病院なんて無いだろうが、今すぐ整形しに行く勢いのエリカを必死で止めた。
『止めないで!ブスッ娘クラブに通ってるってことしか解ってないんですよ!そんなミステリアスな全蔵さんに逢うためには他に方法が無いじゃないですかー…』
言い終わる頃にはエリカの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていた。
『…泣かしたね、銀時』
ババァがドスの利いた声で地味に責めてくる はぁ?俺のせい?
エリカは小さな手で顔を覆って肩を震わせている
ブス専なんか好きにならなけりゃエリカはかわいいんだから簡単に幸せを掴めたかもしんねーのに
バカだなぁ
とは思ってみるけど 可愛い女が泣いてる姿ってのは気持ちのいいもんじゃない
『…あ〜、エリカちゃん?とりあえず泣き止もう。ブスッ娘クラブには紹介できないけど俺はエリカちゃんのこと応援するから、な?』
やさしく肩をポンと叩くとエリカはゆっくり顔を上げた。
『ほんとですか?』 目を見りゃ真っ赤、ウサギさんですかコノヤロー
『ババァ、ピザだ!ピザ頼め』
『スナックで宅配ピザだぁ?』
『いいから頼めっつってんだろーが、泣いた後にはピザって相場できまってんの』
聞いたことねェよ、って言いながらも電話をかけるババァ
『私、ピザよりハーゲンダッツ食べたい』 涙をぬぐいながらさりげなくわがままぬかすエリカ
ちょ…テメェ、銀さんの好意を無下にする気か
なんやかんやで30分位たった頃 店の外に人の気配を感じた
『忍々ピザでーす。お届けに参りましたー』
『はーい、ピザピザ〜♪』 ハーゲンダッツが良いとか言いながらエリカは嬉しそうにパタパタと小走りで戸に向かう
戸を開けたときのエリカの反応を思うと自然と口角がつり上がってくる
『あんた、なに企んでんだい』 訝しげに睨み付けてくるババァは気にしない 磯村くんはどうでもいいけどエリカちゃんには喜んでもらいたいからな
『ご苦労さまです〜』 ガラッ『どうも、忍々ピザです、お待たせし…』
『全蔵さんッ!?』 エリカの目の前にピザを片手に突っ立っていたのはバイト中の想い人、服部全蔵
『え?な、何?』
テメェの名前呼んで頬を赤らめて放心してんだ、何か察しろっつーんだよ
『あの…代金、2800円なんだけど…ちょっと、聞いてる?』
『全蔵さん…』
見てよあの顔、ラブコメ漫画みてぇに目がハートだよ 幸せそうに天を仰いで…そのまま後ろに…
どっしーん
『ちょっ…、エェェッ!?何なのコレ!新手の嫌がらせか何か?!この娘頭打ったんじゃないのコレ?』
エリカは全蔵の足元で倒れていた
…ラブコメ漫画まっしぐらですか 好きなやつに会って興奮して倒れるなんてよ…
『まぁ、でも、よかったのかねぇ』 ババァが介抱しながら呟いた。
『幸せそうに笑いながら気失ってるよ』
覗き込んで見えたエリカはだらしなく笑みを浮かべていた でも言われた通り嬉しそうに見えた
なんか腑に落ちない気がするけどエリカが幸せそうなら…
それでいいか
幸せの続きは夢のなか
『良くねぇよ、代金払ってくんねーと俺、困るんですけど…。コレ頼んだのお宅らでしょ?頼んどいて放置プレイってどうゆうこと?』
全蔵はまだピザを持ったまま待たされて居ました。
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