鈍いところも愛嬌



『総悟、最近真面目に働いてるみたいだな』
パトロール中に助手席の十四郎が呟くように言った

いつもの総悟と言えば仕事中に昼寝をしたり、ゲームをしたり、見廻りのルートを逸れて遊びにいったり…

しかし最近は十四郎の目に映る彼の働きぶりは至って真面目だった
屯所での内勤や用心護衛には積極的では無いにしろ市内パトロールをサボっている様子はない

『俺はいつでも真面目でさァ』

…嘘つけ。
そう思ったけれど最近の総悟の様子はいい傾向であることは間違いない
十四郎はそれ以上ツッコミはしなかった

まぁいい、あいつがしっかり働いてくれんなら

その矢先、パトカーが急ブレーキをかけた

『どうしたってんだ、総悟』
十四郎の言葉は総悟の耳に届いているのかいないのか
総悟は左斜め前を向いたまま動かない

その視線の先に何があるのか
辿った先にいたのは一人の女の子
やけに大きな荷物を抱えた彼女は見るからにフラフラだった

『何だ?知り合いか?』
十四郎が総悟に問いかけたが返事はない

運転席を見れば居るはずの総悟の姿がない

辺りを見回せばパトカーの前を横切る彼の姿

『ちょっ…お前ッ!なに降りてんだよ』
十四郎が窓から身を乗り出して呼び止めた

くるりと振り返り総悟は真面目な顔でこう答えた
『困ってる人の助けを呼ぶ声がするんで行って来まさァ』

『ハァッ!?お前いつから正義のヒーローになっちゃったの!?』
総悟らしくない台詞に思わずツッコミする十四郎

驚く彼を気にも止めず総悟は彼女の元へ駆け出していた



『エリカ!』
声に振り返ったエリカは満面の笑顔

『総悟くん』
エリカはそよ風みたいに心地よい声で俺の名前を呼ぶ

ただそれだけなのに
俺は喜びに満ち足りた気分になる

『大変そうじゃねぇか、持ってやらぁ』
エリカの抱えていた荷物を思いとは裏腹に乱暴に奪い取る

フラフラなのが心配で駆けつけたなんて恥ずかしくて知られたくはない
自分らしく無いから

『え、悪いよ、それ重いから…』
申し訳なさそうに見上げてくるつぶらな瞳が自分を映して居る

それだけなのに
この胸はどうしようもなく高鳴る

『重いなら尚更エリカには持たせられねぇだろーが。辛くてフラフラしてたくせに』
総悟の言葉はぶっきらぼうなのにエリカはふわりと微笑んだ

『ありがとう、総悟くんてあたしが困ってるといつも助けに来てくれるよね』
その表情は自惚れでなければとても嬉しそうに見える

『…たまたまでィ』
跳ね上がる鼓動を誤魔化すように素っ気ない物言い

それでも嬉しそうに見つめてくるエリカ
まともに横が見られない
初恋でもした中学生かってくらいエリカの前ではどぎまぎする自分に呆れるばかりだ

『まるで正義のヒーローみたいね、チンピラ警察って呼ばれてるのに』

『ひと言余計でさぁ、困ってる市民を助けるのが警察の仕事なんでィ』

クスッと笑みをこぼしエリカはぴょんと前に飛び総悟の前に出し立ちはだかった

『残念だなぁ、あたしだけのヒーローじゃないのか〜』

『!!』
上目遣いで破壊力抜群の口説き文句に総悟は言葉を失った

『…な〜んてね。それが総悟くんの仕事なんだもんね』
今度はイタズラッ子のように愉しげに肩を揺らすエリカ


調子狂わされっぱなし


頼むから
あまり俺を惑わさないでくだせぇ


鈍くて無自覚に小悪魔で
やりずらいったらねぇのに…

彼女の一挙一動が俺の心を捕らえて離さないんだ

thanks!瞑目
まゆさん
リクエスト感謝!



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