ツンデレガール
『エリカちゃ〜ん、今日は何の日だ』
パトロール中、街で偶然出会った顔馴染みが妙にデレデレした笑顔で問いかけてきた
『銀さん。なんですか、藪から棒に』
『ちょっとォッ!忘れちゃったの?銀さんアレだけ言ってたのに!?』
大の大人が人の往来で涙目ですがり付いてくる
『言ったよね、エリカちゃん!今日はいっしょに祝ってくれるって!言ったよね、確かに言ってた!』
『えぇ…?祝うって、体育の日を?』
『ぐはァッ!!』 妙な呻き声をあげ、その場に大げさに崩れ落ちた
真選組に入隊してからまず教えられた要注意人物、高杉晋助、桂小太郎、攘夷浪士の二人に並んで真選組に目を付けられているこの男
多分、…いや、間違いなく あたしはこの男に好意を寄せられている
『あいつには近付くなよ』 副長にそう言われていたけど、あっちから近づいてくるんだからしょうがない
最近はとくにしつこかった
『エリカちゃん、覚えといて。10月10日銀さんの誕生日』 『はいはい』 『エリカちゃんに祝うってもらえたらさ、銀さん嬉しくて月まで飛んでいけちゃいそうだね』 『はいはい、そのまま二度と帰ってこないでくださいね』 『くぅ〜ッ!エリカちゃんのそのツンな態度がたまんねェ!はやくデレが見たいな〜』
ここ数日はこんなやり取りの繰り返し
そう、今日は銀さんの誕生日なのだ
『ひでーよ、エリカちゃん。今日は銀さんの誕生日でしょー俺、今日をどんだけ楽しみにしてたと思ってんの?』 銀さんは壁に向かって三角座りして地面にのの字を書いていた
『銀さんなら祝ってくれる人たくさんいるんじゃないですか?ほら、神楽ちゃんとか眼鏡くんとか、姐さんとかドMの忍者さんとか…』 銀さんの回りにはたくさん人が集まってくる
わざわざ冷たくしてしまうあたしの所に来なくてもたくさん祝ってもらえるはずなのに
『あんな奴らどうでもいいの、俺はエリカちゃんに祝ってもらいてぇんだよォォォッ!』
『あんまり騒ぐと迷惑行為とみなし公務執行妨害で逮捕しちゃいますよ』
『ぐはァッ!どんだけツンなんだエリカちゃんんんッ!』
『それではあたしはこれで』 まだ騒ぎ立てる銀さんをほったらかしてあたしはきびすを返した
『ちょっとまってェッ!!』 歩き出したあたしを引き留めようと腰に銀さんがしがみついた
『今度は猥褻行為?いい加減あたしも怒りますけど?』
『わかった、わかったから。もうエリカちゃんとお誕生日デートは諦めるから一個だけお願いッ!』
この人は人目を気にすることを知らないんだろうか まだ昼過ぎで人の往来が激しい中で女に、しかも警察にすがり付く姿を晒すなんて
『わかったから、離れてくださいよ〜。こっちまで恥ずかしいんですけど!』 今にも泣きそうな銀さんを引き剥がしそのお願いとやらを聞いてみた
『お誕生日おめでとう、銀さん(ハート)って甘〜い声で言って』 それはそれは本当にしょうもないお願いだった
『…無理』
『何でだよォォッ!簡単なことじゃん!ちょっとデレを解放するだけじゃん!カメハメ波だすより簡単じゃん、卍解するより簡単じゃん!』
『簡単じゃない、あたしそうゆうキャラじゃないから』
『エリカちゃあああん!お願いです、ひと言、言ってください!』
『いや』
『ケチーッ!』 銀さんはようやくあたしの腰から離れたかと思えば地べたに這いつくばって子供みたいに駄々をこねる
この人は自分よりいくつも年上なのに、もういい歳なのに
なんでこんなにも… かわいいんだろう
『仕方ないなぁ』
『えっ!言ってくれんの?』 さっきまで泣きそうな顔してた人が次の瞬間には満面の笑顔
『言ってはあげない、けど』
『…けど?』 今度は不安げに上目遣い ぷるぷる震えてたらチワワみたいな
あたしのひとことで過剰な迄に一喜一憂しる銀さん
次のひとことで銀さんはきっと、すっごく嬉しそうな顔を見せてくれるはず それを思うと思わず笑いが溢れてしまう
その間も銀さんはチワワなままで
しびれを切らして銀さんに急かされる前に言ってあげますか
『デートならしてあげますよ、仕方ないから』
ほらね 最高の笑顔
『来たァァァッ!エリカちゃんのデレいただきましたァァァッ!』
『あんまり煩くすると、あたし帰りますよ』
『来たァァァッ!エリカちゃんのツンもいただきましたァァァッ!』
誕生日プレゼントは無いけれど、なんだか銀さんが喜んでくれたみたいだから良しとします
10/10 Happy Birthday!
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