サプライズ



今日も俺は月夜を跳ねる猫のように静かに任をこなした

意外に手強かった用心棒を倒すのに時間はかかったが無事、ミッションコンプリートだ

『さすがね、全蔵』
共に任務をこなしていた脇薫

『なに、チョロいもんさ、あんなヤツ』
小さな強がりを言っていたら朝陽が顔を覗かせた

任務に一晩かけたなんて珍しいことだった

『そう言えば今日は全蔵の誕生日だったわね、おめでとう』
そう言って彼女は朝陽の中に溶け込むように姿を消した


…それだけ?
プレゼントとかないの?

…いや、別にいい
誕生日が嬉しいなんて子どもの内だけだ
俺には関係ない
…強がりじゃねぇよ?いや、ほんとだから!

そんなことより今日は月曜日だ
ジャンプ買いに行こう


行き慣れたコンビニで今最も会いたくないヤツに出会った

『…まァたお前か』
『それはこっちの台詞なんだけど』

銀髪の天パヤローだ

コイツに関わるとろくなことがない
さっさとジャンプ買って帰るよ、俺は

ジャンプへ伸ばした手は空を切る
お目当てのジャンプはあいつの手の中

『お先に』
いけ好かない笑顔でヤツはレジに向かった

まぁいいさ
ジャンプは入荷されたばかりだ…と棚に目をやるとあるはずのものがそこにない

…え、ちょっと、なんで?
ジャンプ、今日発売したんだよね?
時間的にも入荷されたばっかだよね?
なんでもう一冊も無いわけ?

甦る年末の悪夢

『ちょっと待てェェェッ!』
銀髪天パヤローがレジにたどり着く寸前の所で引き留めた

『なに、磯村くん。なんか用?』
『ちょっとズルくない?抜け駆けじゃん?』
『は?何の話?』
『惚けんなてめえ!一冊しか無いってわかってたらてめぇなんぞに渡さなかったんだよ!』
『うるせーよ、早いもん勝ちだろ、こうゆうの』

いい歳した大人がレジの前で大喧嘩
それもジャンプを取り合って

早朝で助かったと思う
俺ら以外のが全く居ないんだから
といっても今の俺はそれどころじゃない

『お前はジャンプよりこっちがお似合いだ』
半ば強引に押し付けられた雑誌

[ブスッ娘マガジン]

いや、たしかにこうゆうの好きだけど
巻頭ページのグラビアとかマジ、サイコーじゃん?

『…ってこれじゃあいつかの年末と同じパターンだろうがッ!』
アイツに叩き付けたつもりだったが雑誌は床に落ちた

『あの、さっきのお客様ならもう行かれましたけど…』
レジにいた女の子がおずおずと教えてくれた

『…あ、そうなの』

…やられた
あの野郎、覚えてろ

『あ、どうも、お騒がせしました』
俺は頭を下げて足早に立ち去ろうとした
恥ずかしいところを見られたわけだし、ジャンプも無いんじゃここに用はない

そんな俺を店員さんが引き留めた

『あの、ちょっと待っててくださいね』
そう言って慌てた様子でバックルームに姿を消した
と思いきや直ぐ様戻ってきた

彼女の手にあるのは
…ジャンプだ

『これ、どうぞ』

『…え?』
彼女の突拍子もない行動にどう反応していいか思い付かない俺

何これ、どうゆうこと?

『…ジャンプ、買いに来たんですよね?』
おそるおそる窺うように聞いてくる彼女
俺があまりにも反応しなかったもんだから不安そうに眉を潜めた

『え、まぁ…そうなんだけど』

そう答えると彼女は満面の笑みで俺の手にジャンプを握らせた

いろいろと腑に落ちないもどかしさは残っているものの、念願のジャンプは自分の手の中だ
言うこと無しだぜ

『じゃあこれ、いくらッスか』
懐から財布を出そうとしたら

『あ、お代は要りません!』
『は?…なんで?』
『わたし、…買っておいたんです』
『え、なんで?』

ほんのり頬を赤らめてはにかむように笑った彼女は恥ずかしそうに言った

『お客さんがいつも欠かさず買いに来るから…気になっちゃって読んじゃったので』

なんだ、このくすぐったいような気持ちは

『だから持って行ってください、中古ですけど』

醜女でもないのに笑顔を見せた彼女が輝いて見えた
窓から射し込む朝陽のせいか

それだけじゃないような気がしたけど俺はどうしていいかわからず

『…どうも』
なんてそっけなくひと言

そんな俺に彼女はとびきりの笑顔で
『ありがとうございました、またお待ちしてます』

心臓のあたりがキュンとした


『…別嬪さんも悪くねぇな』
俺のつぶやきは朝の静かな町並みに溶け込むように消えた


朝から最高の誕生日プレゼントもらったような気分だ


8/22 Happy Birthday!



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