自惚れ



真撰組監察方、山崎退

危険な潜入捜査もパシリでも頼まれれば何だってやる。


そう、…何だってやるけれど嫌いな任務だってある。


今、俺がいる場所…

大江戸ストア


あのマヨラーの為にマヨネーズを買い込まなきゃならない

この時だけは逃げ出したくてしょうがなくなるんだ


(あ、マヨネーズ男だ)
(今日もマヨネーズ買うのかねぇ)

店員たちがヒソヒソと俺の噂をしている。
彼女たちは絶対に俺がマヨラーだと思っているんだろう。

俺のことはいいから働けよバカヤローが!

…と、心で叫びながら足早にマヨネーズのコーナーへ向かう。
店員たちの視線を振り切るように

棚にあるマヨネーズを全て買い占めてそれで任務は終了だ。


男・山崎退、行きます


………

最悪だ。
今日の俺は地味なだけでなくツいてもいない。

マヨネーズの棚の前に今、一番会いたくない人がいる。

エリカちゃん
このスーパーの看板娘と言っても過言ではない、小柄だけど存在感がある華やかな娘だ。

普段なら彼女のレジを狙って並んでやるものだが…
マヨラーと思われたくなくてこの日ばかりは悲しいけれど彼女に見つからぬよう任務を遂行するのだ。

色白でふんわりと柔らかそうな明るい色の髪をトップで纏め、そのせいで露になるうなじがそれはもう色っぽくて…

そして振り返り、睫毛が長くてパッチリとした愛らしい目で見上げられて…

『あ、いらっしゃいませ』

そう、いらっしゃいませって言われたら俺は…って


え…


彼女は俺に微笑みかけていた。

『…どうも』
反射的に頭を下げながら、頭の中で狼狽していた

俺のバカヤロー!何故すぐに身を隠さなかったコノヤロー!いや、たしかにマヨネーズを品だししてるエリカちゃんも可愛かったけど…そんな棚一杯に出してくれなくていいのに…

いやいや、そんな事を言ってる場合じゃない。
この場をどう切り抜けるか…。

…買わずに帰っちゃおうか。
いやいやいや!そんなことしたら副長に半殺し、いや普通に殺される!
しかし…
『マヨネーズ、お好きなんですね』
頭の中で激しく葛藤するエリカが天使のような微笑みで話しかけてきた。

ば…、ばれてる…

マヨネーズの日はエリカに見つからないように細心の注意を払っていた退。

曖昧に笑顔を返して見せた退。

頭の中はマヨラー副長への悪態で一杯だ。

もう終りだ…
さっさと買って、さっさと帰ろう

愕然とする退の前に差し出された白くてきれいな手
その手が持っているもの


ドレッシング…?
和風おろし…?
カロリーオフ?

反射的に受け取っちゃったけどなに?なんなの、コレ…

『これ、わたしのオススメです。サラダ好きなのはいいけどマヨネーズかけすぎたら体に悪いですよ』

『…あ、ありがとう』
そう言うとエリカちゃんは嬉しそうに笑った。
その頬は少し赤い(気がする)。

『…でも、マヨネーズは頼まれものだから買わなきゃいけないんだよね』
そういって俺はありったけのマヨネーズをかごに入れた。

『あ、そうだったんですか?ごめんなさい、私、でしゃばったりして…』
少し悲しそうに俯くエリカ
その姿もかわいらしい…

『いや、ありがとう。せっかくだから買ってみるよ、オススメなら』
今度は嬉しそうにはにかんでいる。
表情がコロコロ変わる、その全てがかわいくて見ていて飽きない。


ツイてないって言ったけど、今日の俺はやっぱりツイている。
エリカちゃんとこんなに話せた。

マヨネーズの日にこんな気分がいいなんて嘘みたいだ。
手にはマヨネーズだらけの重いかご、だけど足取りは軽やかだ。


『仕事頑張ってくださいね、山崎さん』

ビックリしすぎて重たいかごから手を離してしまった

え…!ちょっと待って?
今、俺の名前…

振り返るとエリカは俺の方を見て花のような笑顔で小さく手を振った。

『またお待ちしてます』

今度は間違いなく、エリカの頬は赤く染められていて


男・山崎退

期待してもいいんですか


『山崎、なんだコレは』

『ドレッシングです、エリカちゃんのオススメで』

『余計なもん買ってんじゃねェエ!俺はマヨネーズ以外認めねぇ!』

『ギャアアア!』



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