君恋し



スナックお登勢の仕事が終わって家路に着く

午前2時を過ぎた辺り

人気のない夜道を一人歩くのはいつまで経っても慣れない

足早に路地を駆け足で通り抜けてた

その瞬間

ピリリリリッ

『うひゃああッ!』

バックの中のケータイの着信音が静かな夜道に響き渡った

情けない声を誰かに聞かれてやしないか辺りを見回したけれど自分以外に人は居なかった

…よかった

其れからケータイのフリップを開いて発信者を確認する

[総悟]

慌てて通話ボタンを押した

受話器の向こうの総悟は開口一番

『…遅ェ、何してやがんでィ。ビビって腰でも抜かしたかィ』

接客で疲れた体に総悟のお馴染みの意地悪な言い種

それでもここ最近忙しくて会えない日が続いていたところ
総悟からの電話は嬉しかった

『そんなこと言うけど真夜中に誰もいない静かな道で急に着信音なったらフツーにビビるわよ』

つい意地を張って素っ気ない事を言ってしまったけど

ホントは嬉しくてたまらない

『残念、エリカの怯える顔見たかったねィ』

『ハイハイ、残念だったね〜』

こんなやり取りすら愛しさを感じてしまう

『そんなことよりどうしたの?なんかあった?』
こんな時間に電話するくらい急用なんでしょ?

『…ああ、もうどうにかなるかと思ったぜィ』

『えッ!どうしたの!?何があったの?』

彼の身に何があったというの!?
驚きすぎてバッグを落としてしまった

なかなか答えない総悟に不安が募る
『…ねぇ、大丈夫なの?』



『『全然大丈夫じゃあねェんでさァ』』
ケータイから聞こえてくる筈の総悟の声が後ろからも聞こえた気がして振り返ると

電話を手にした総悟が立っていた

名前を呼ぶ間も与えられず抱き寄せられた

逢いたくて仕方なかった


あたしだって
逢いたかったよ

もう離れたくない
そう言わんばかりに、総悟の背中に回した腕にキュッと力をこめた



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