いつか、君に
全てを壊すだけ
愛しい人が言った
大切な人を奪ったこの世が嫌い
昔の事なんて一言も話してくれないけれど、何にも変えられない大切な人が居た
その人がまだ彼の心の中にいて、その人を失った悲しみが彼を動かしている
『わたしはこの世界が好きですよ』
窓辺で煙管を吹かしている晋助様に言った
『あァ?オメーの口からその言葉がでてくるたァ…気でも狂ったか?』
この吉原に鎖で繋がれた自由の無い身のわたし
『オメェもこの世を憎んでいると思ってたんだがな』 ククッと笑う晋助様
綺麗で、妖艶で、何処か儚い彼の笑顔
フラりと現れて気まぐれに抱いていく
花魁と客、それだけの関係
それでも抱いてしまった特別な感情
愛しい人がいるこの世界をどうしたら嫌いなれるだろうか
『世界を壊して、』
その先に 何がまっているというの
言葉は深い口づけに奪われて
二人の体は再び柔らかな布団に沈んで
貴方がわたしの声を聞き入れないのは解っている
晋助様が背負う荷物は大きくて重たくて、そう簡単に下ろせるものじゃない
ただ、声が届く所にいる間は…
この世界で 貴方と生きていきたいと
謳うように繰り返す
いつか、届くと信じて
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