雨音ラプソディ



雨の日の市中見回り
めんどくさいことこの上ない

縁側で雨音を子守唄に気持ちよく寝ていたのに、土方コノヤローに閉め出されたのが一時間前

雨は正直嫌いだ
昼でも暗いし、じめじめして気も滅入るし、傘を差しても足下は濡れるし…

それに

辛い事があった日はいつだって雨が降っていた


とはいえ屯所に居られなくなった以上、仕方なく決められたルートをぶらぶら歩く


…そういやアイスの当たり棒、あったっけな

見回りの担当ルートを逸れ、向かったのは駄菓子屋

怪訝そうな顔を向けるババァ
『チッ、安心しなせェ、これは偽造したヤツじゃねェよ』

湿気た駄菓子屋を出ようと出口に目をやると見慣れた背中が軒下に佇むのを見た

『エリカ、こんなとこで会うなんて奇遇だねィ』

『あ、総悟くん!』

振り返ったエリカは雨に濡れ、いつものかわいい姿とは違い色気を感じちょっと動揺したじゃねーかコノヤロー

そんなエリカはニコッと微笑んで
『雨のなかパトロール?大変だね』なんて言う

大変だねっていうあんたの方が大変だろう

着物も荷物もびしょ濡れじゃねィですか

『そうゆうエリカは水浴びでもしてたのかィ』

大丈夫か、なんて気遣う台詞が素直に出せないこの口が憎たらしい
ホントは死ぬほど心配してんだぜィ

そんな言葉もエリカには冗談に聞こえたみたいで

楽しそうに俺の隣で笑う

『傘持ってたんだけどね、買い物してる間に持ってかれちゃった』

ツイてないよね

そんな自分を笑い飛ばしながら

目にかかる濡れた前髪をそっと撫でる綺麗な指先に自然と目がいく

その影に見え隠れする円らな瞳も

愛しくて目が離せなくなる


『…ったく、しょーがねェ奴でさァ』

バサッと音をたてて傘が開く

『入りなせェ、送ってってやりまさァ』


愛あい傘


『もっと此方に寄りなせェ、肩が濡れてるじゃねぇですかィ』
『あたしなら平気だよ、もう濡れてるンだから』

それに
くっついたら総悟くんが濡れちゃうよ

眉尻を下げて笑うエリカ
こんなときまで人の事気遣うなんてどんだけお人好しだよ

右手に傘を持ち変えて
エリカの冷たい肩を抱き寄せた

急に口数が減ったエリカ

『…照れてるんですかィ』
『…ちょっとだけ』

そういって俺を見上げたエリカの顔
余りの近さに言い出した自分も照れてしまった

『でもね…』
桜色に染まる濡れた頬、唇、長い睫、黒目がちな大きな瞳
まっすぐに俺の顔を見据えて呟いたエリカ

恥ずかしそうに笑いながら

『ずっと憧れてたんだ…あいあい傘』



嫌いだった雨の日も

アンタがいるなら悪くないかもしれねェや




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