頭の中は、君一色



『きゃああああっ』


むさくるしい真撰組の屯所にふさわしくない黄色い悲鳴

『退くん!どうしたの!?どうしてこんな大ケガなんて…、危険な任務だったの?』

縁側に腰かけていた俺は確かに包帯ぐるぐる巻きで…

俺に駆け寄ってきた女の子はひどく取り乱している

『やだやだ、死んじゃやだよーっ!退くーんっ!』

今度はすがり付き泣き出してしまった

エリカちゃん

早とちりで思い込みが激しくて心配性な、俺のかわいい彼女

『あの、…エリカちゃん?』

涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた、泣き顔もかわいいエリカちゃん

『今日は、何日か分かる?』

『へ?』

とぼけた顔も可愛いし

『10月31日だよ』

『…………?』

考え込む姿もかわいいし

『今日はハロウィンで、この包帯は一応ミイラ男の仮装だったんだけど…』

言葉の意味を徐々に理解していったようで俺の足元に踞る形で強ばっていた小さな体も徐々に力が抜けていったみたいだった

むしろ…
力が抜けすぎて…

『あ…、安心したら、腰抜けちゃった…』

『しょうがないなぁ、エリカちゃんは。着物、汚れちゃうだろ?』

恥ずかしそうに笑って、地べたに座り込んでしまった君に手を差しのべた

その手を握り返す僅かな力にも愛しさを感じて止まない

『…でもちょこっと残念だったかな』
立ち上がったエリカちゃんがポツリ呟いた

『え!?俺が怪我してなかった事が!?』

困ったような微笑みで頷いた

なんだよそれェ〜
軽く落ち込むよ〜エリカちゃんッ!

『だって、もしこれだけ大怪我してたら…お仕事なんて行けないでしょ?』

まあ、そうだろうね

…あ、張り込み位なら出来るかも
そう思ったけど一応頷いた俺

『そうしたらたくさん一緒に居られるじゃない?…あ、でも退くんが元気なのが一番だよ、もちろん』

ちょっと…
あんまりかわいい事言うと…
ミイラ男じゃなくて狼男になっちゃうよ?

『エリカちゃんッ!』
『退くん♪』

頭の中は君一色



愛しい彼女を抱き締めようとした瞬間、左方向からの強い衝撃で俺の体は吹っ飛んだ

『エッ!?何?何が起こったの?!』
『退くん!』
駆け寄るエリカちゃんの肩越しに見えたのが…

『見苦しいもん見せてんじゃねェぜ、ザキが。この際、本物のミイラ男にしてやりまさァ』
『そうです!ムラムラは20歳過ぎてからです!』

僕らの恋に
障害は山ほどある





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