オオカミ男にご用心



『アララ〜なに?この甘〜い匂いは』

『クッキーね、わたしの鼻に狂いは無いアル』

キッチンから漂う甘い香りに誘われて糖類王と大食い娘が顔を覗かせた

その二人の姿はいつもとは違う…奇妙な姿

今日はハロウィン
銀さんはドラキュラ、神楽ちゃんは…家なき子?新八くんは…ヤクザ?個性あふれる仮装姿に思わず笑みを溢した

私はというとイタズラっ子たちに配るクッキーを焼いているところ

『まだ冷めてないから食べちゃダメだよ』

つまみ食いしようとする二人の手をピシャリと叩いて止めた。

冷めたクッキーを可愛くラッピングして準備万端

今か今かと待ちわびていた万事屋トリオは声を揃えてあの言葉を唱えた。

『trick or treat〜、お菓子くれなきゃイタズラするぞ(アル)』

『はい、どうぞ』
三人にそれぞれクッキーを配った

銀さんと神楽ちゃんは早速包みを開いて次々と口に放り込んでいく

その口はまるでブラックホール

『ちょっとォッ!落ち着いて食べたらどうなんですか!銀さん、アンタいい大人なんだから!神楽ちゃんッ!それは僕のだァアッ!』

イベントごととなるといつもに増して賑やかな万事屋

『まあまあ、まだ包んでないクッキーもあるし…』


『キャッホーッ!』
言うや否や神楽ちゃんがそのクッキーに飛び付く

『待て待て!』
それに続いてマントを翻した銀さんも

『もぉ…しょうがないんだから』
新八くんはため息混じりに呟いた


ピンポーン


誰かが訪ねてきたみたい

家主はクッキーに夢中で出る気はゼロ

『仕方ないなぁ…、僕が…』
ヤクザ姿の新八くんに出迎えられたらお客さんがビックリしちゃうのでは…
『あたしが出るよ、新八くんもクッキー食べてきたら?』

『スイマセン、エリカさん』


お客さんを待たせてはいけないと大急ぎで戸を開けた

そこに立っていたのは…


『…オオカミ男、さん?』

黒づくめのみなれた制服に猫耳ならぬオオカミ耳とオオカミの口をあしらったマスクでささやかに仮装した…

『総悟でさァ』

『いらっしゃい、総悟くん。よく似合ってるよ』

甘いマスクにピッタリなオオカミの耳と妙にリアルなオオカミの口

『trick or treat〜、お菓子くれなきゃイタズラするぜィ』

総悟くんの声が聞こえたのかキッチンから神楽ちゃんがやって来てニヤリと笑った

『エリカのクッキーはぜんぶ食べたアル、残念だったなサド野郎』

『嘘ッ!あんなにあったのに!?』

『と言う訳だよ沖田くん、ご愁傷様』
口の回りにクッキーの食べかすを付けたまま仁王立ちでほくそ笑む銀さんと神楽ちゃん

無いものは無い、それは変えようの無い事実で…

『たくさん作ったはずだったんだけど…ごめんね?』
とにかく謝った

するとオオカミのマスクで殆ど隠れた総悟くんの顔がドSな笑顔に歪むのをみた

『かまいやせんぜ、来る前からそうなることは目に見えてやしたから』

…?
じゃあ何?

仮装した姿を見せに来てくれただけ?

総悟くんはおもむろにマスクをはずした

そしてあたしの腰に手を回して抱き寄せた

『お菓子くれないからイタズラしてやるぜ』
ニヤリと笑った総悟くん

かっこいいな…なんてちょっと見とれてしまう黒い笑み

その綺麗ともいえる顔がどんどん近づいてきて…

ぼんやりしてる間に奪われた唇


『『『あァアアッ!!』』』

後ろで狼狽する三人の声した



『ごちになりやした』

弾丸のような神楽ちゃんの飛び蹴りをヒラリと交わして外に出た総悟くん

『ちょっとッ!総悟くん、ズルいからッ!そんなイタズラなら銀さんもイタズラの方が良かったからッ!』

『何言ってんだアンタはァッ!!』

目の前で繰り広げられてる騒ぎが遠くの事のような…
ぼんやりしたあたしの世界


もうオオカミ男さんしかみえません


ハロウィンのイタズラで

奪われたのは

唇だけじゃなくて

あたしの心




帰り際、総悟くんが耳元で囁いた

『オオカミ男のほんとのイタズラは月が出てからでィ、覚悟しとくんだぜィ』

…顔が赤くなるのが自分でもわかった

そんなあたしをみてニヤリと笑ったオオカミ男さんがカッコよくて、頷くのが精一杯だったりして


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