君は特別



少しだけ暑い、晴れた昼下がり
よろず屋に気だるげな声と力無いノックの音

『旦那ァ〜、居るのは分かってますぜ。開けてくだせェ』

戸が開いて現れたのは

『何のようですかー、総一郎くん』

『総悟でさァ』

毎度お決まりのやり取りを飽きもせず繰り返すよろず屋の旦那

『サド野郎、テメー!何しに来たアル』

『エリカはどこでィ?』
あからさまに歓迎していないチャイナ娘はほっといてどっかりソファに腰をかけた。

『総悟くん、いらっしゃい』
畳んだ洗濯物の影からエリカが柔らかい笑顔を覗かせた。

エリカはよろず屋メンバーの一人でチャイナと共に住み込みで働いている気立てのいい女の子だ

こうして用もないのによろず屋に足を運んでしまうのはエリカのその笑顔が見たいから

『洗濯物は後にしてエリカもこっちに来なせぇ』
総悟は持っていた箱をテーブルに置いた

『こっ、これは…かぶき町で一番美味いと有名なケーキ屋さんの箱じゃないの!?』
『マジでか!』

取り分けられたケーキを目前にした旦那とチャイナはお預けされた犬みてェだ

三人は手を合わせ、声を揃え律儀に『いただきます』を言ってからケーキにフォークを伸ばした

旦那とチャイナのケーキは口に吸い込まれるかの様に消えた。
それと同時に聞こえてきたのは悶絶するふたりのうめき声…

『水ッ!水ゥウウッ!』
二人は一気にグラスの水を飲み干した

総悟はケーキを買った時、ドSのたしなみタバスコトッピングは忘れてはいなかった
ニヤリと笑う総悟の横で二人の様子を不思議そうに眺めながらエリカはケーキを口に運んだ

『ダメ!エリカちゃんは食べちゃ…』
『駄目アルー!!』

二人の必死な叫びがこだまする…



『…おいしい』

『…え?』

うっとりしているエリカに二人は呆気にとられていた


え…タバスコ…はいってないの?

当たり前でさァ


アンタの前では優しい男


幸せそうにケーキを頬張るエリカもそらぁもう可愛くて

『残念でさァ、奴らには美味さがわからないんでィ』

『ホントだね、こんなに美味しいのに』
エリカは隣の総悟ににっこり微笑みかけた

『ありがと、総悟くん』


その笑顔が見れるなら毎日だって仕事サボってケーキ買いに行きまさァ
(サボるのはいつものことだけど)




『あンのサド野郎!今日こそブッ潰すッ!!』
『沖田くんを疑わなかった俺らの敗けだよ…』



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