彼の策略



『わたし、ダイタニックがいい』

『却下』

『せめてハルマゲドン!』

『興味ねぇ』

『あたしだってホラーに興味ねぇ!寄りによってスプラッターもの?冗談じゃないわ』

『この際エリカの意見はどうでもいいんでさァ』

何ですと!?

映画館の前で人目をひくほど言い合うカップル

私服のエリカと制服姿の総悟

デートの予定じゃ無かった二人がここにいるのは…


一時間ほど前

休日のランチを一人楽しんでたら偶然総悟に会った。
彼はもちろん仕事中、黒い制服でどっかり向かいの席に腰かけた。

『仕事は?』

『見回りくらいヤロー一人でやれまさァ』

総悟のサボりは日常茶飯事
ため息をついた山崎さんが運転するパトカーを見送った


彼は私の飲んでたオレンジジュースを一口飲んで突拍子もないことを口にした


『最近映画見に行きましたかィ?』

『あ〜、最近見にいってないなぁ。DVDは何本か借りたけどね』

『じゃあ今から行くぜィ』

『えッ!?ちょっと、総悟くーん?お仕事中ですよねー?』

『休憩』
アンタは毎日休憩でしょ


そんなこんなで冒頭に遡る


私の意見なんか聞いてもらえず、総悟が見たいと言う映画『サイレントビル』に決定

巨大スクリーンど真ん中、一番後ろの席に私たちは座った。

『此処が一番見やすいんでィ』

どーでもいい
わたしはそんなことどーでもいいの

とにかく早く終れと強く願った

ブザーと共に部屋が暗くなり映画のCMが流される

…あ、ダイタニックだ
絶対こっちの方が良かった
感動しそうだし、俳優さんかっこいいし…

『これもなかなか面白そうだねィ』

『ほらね、だから言ったのに!』

『船が沈んでく時の人々の醜い争いとか泣き叫ぶ姿が…』

…根っからのドSだわ


そして映画が始まる

初っぱなから女の子の悲鳴が…、最初の被害者

ビルに閉じ込められた数人が謎のモンスターやらと死闘を繰り広げるという…バリバリのホラー

ゲームを原案にしたヤツとからで話題になってた映画らしいけど…私、無理!CMだけで怖かったの!グロかったの!見たくないよー

怯えながら見ていた私は思わず総悟の制服の袖を強く掴んでしまった

『何でィ、もう音をあげたかィ。まだ始まったばかりだぜィ』

耳元で囁く総悟の声はどこか楽しいそうでちょっとムカついた

話が進むにつれて目を背けたくなるシーンが増えてきて…

もうずっと目を力一杯閉じて映像を遮る手段に出た

早く終わって〜ッ

密かに震えていた手がいつの間にか総悟の手を握っていた

らしくない行動

普段のわたしなら自分から手を握るなんてしないもの


…変に思ってるよね
後でバカにされるかな…

恥ずかしくなって手を離そうとしたその時だった

繋がる手に僅かに力が加わるのを感じた

握り返してくれた事がちょっと意外で、でも嬉しくて

『何見てんでィ、…怖いんだろ?』

映画を見てる横顔を見ていたらぶっきらぼうにそう言われた。

そこからはもう映画の怖さも半減したように思う
(怖いところはやっぱり半端なかったけど)


『ギャーギャー言ってた割りに結構余裕だったねィ』

映画が終わり明るくなった部屋で開口一番に総悟が言った

『余裕じゃないわよ!怖くて怖くて死んじゃうかと思ったんだから』

何度も声を上げそうになる驚かされたし、ぶっちゃけ涙目です…わたし

それをみてニヤリと笑う総悟

『あー、それにしてもたのしかったな』

『私は全然楽しくなかった!』
対して私はあからさまに不満な表情を浮かべる

『エリカの怯えた顔は見物だったし…』

ドSめ…

『エリカの方から手ェ握ってくるしなぁ』

まだ繋がれたままの手
まだ離せない右の手

『………』

見なくても分かる
総悟がどんな顔をしているか


『また来やしょうね』

心なしか弾むような声を
今日一番の笑顔で




怖がりなくせに強がるエリカを素直にさせるにはやっぱり怖がらせるのが一番だ


全部俺の思惑通り


素直になったエリカはかわいかったが

やっぱりドSな俺としては…

怖がる顔が一番だったりしてな


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