キスでぜんぶ忘れるから



真撰組の局長、近藤勲

勇敢で男らしくて、
だけどストーカーで…

今夜も頬を腫らした近藤さんがお店にやって来た。
スナックすまいるの帰りであることは一目瞭然

ここはエリカが働く小さな居酒屋

閉店間際で客足も止まり落ち着いてきたら…

カウンターでめそめそしている彼のとなりに座り黙って話を聞いてやる

この光景も見慣れたものだ


『どうせ俺なんて…ケツ毛ダルマのゴリラ野郎なんて…消えてなくなればいいんだ』

今日は一段と落ち込んでいるみたいだ

『そんなこと言っちゃ駄目ですよ、近藤さん。あなたが消えてしまったら悲しむ人がたくさんいるじゃないですか』

『ホントに?』
瞳を滲ませて顔を上げる近藤さん
体が大きな子供みたい

『本とですよ』
よしよし、とあやすように頭を撫でた

『お妙さんも?』

『……、もちろん』

『エリカさーん!その間は何ですかーッ』

此処はすんなり『はい、そうです』というべき場面だった

私は嘘をつくのが下手くそで…そのせいで近藤さんは再び涙の海へ


『こりゃ駄目だね、いつもに増して湿っぽいったらないね』
マスターが呆れたように笑う

『そう、みたいですね…』

理由は知っている。
大切な日に大好きな人にコテンパンに振られてしまったんだから

ちょっとロマンチストな面がある近藤さんだから今日、近藤さんな誕生日はいっしょに過ごしたかったんだろう…


『情けないねぇ、女にフラれた位でメソメソしちゃってよ』

『でも、それだけ…大好きって事ですよね』

近藤さんの心の大半を占めるお妙さんという存在
こんなに愛されてるって幸せな事ですよね

『…うらやましいな』
ポツリ溢した私の本音

いつもフラれた近藤さんを慰めるふりしながら、二人で過ごす時間を楽しんでた

心配した
応援した
励ました

全部貴方が好きだったから

彼の幸せを願いながら、本とは自分の幸せを夢見てた

『エリカちゃん、受け身のままじゃこの人にはいつまでたっても伝わらないよ』
全てお見通しと言わんばかりにマスターがニヤリと笑みを浮かべた



『近藤さん、もう涙を拭いてください』
カウンターに伏せたまま泣いていた近藤さんにハンカチを差し出した

お気に入りだったハンカチはすぐに近藤さんの涙と鼻水でびしょびしょになった

『エリカさん、俺は…俺は…』『近藤さん、大丈夫です。貴方を想っている人は必ずいますよ』

『何処に!?居るわけ無いですよーッ!俺なんか、俺みたいなケツ毛ダルマのは独りで寂しくッ…』

卑屈な事ばかり並べる近藤さんの口を触れるだけの優しいキスで塞いだ

『…あ。』
マスターの間の抜けた声が聞こえた

『エッ!?エッ!?なにコレ?嘘ッ!?』
激しく取り乱す近藤さん
何が起こったのかもわかってないと言うか、信じられないと言った状態

そんな姿もかわいいです

『お誕生日おめでとう、近藤さん』
自身最高の笑顔で祝福

『…俺の誕生日、憶えてくれてたんですか』

『勿論です、大好きな人の誕生日ですから』

呆気に取られた近藤さんは、今度は電池を抜かれたみたいにピタリと動かなくなった


『貴方を想う人、居たでしょ?意外と近くに』


あなたにキスをプレゼント


迎えに来た土方さんに引きずられ近藤さんは帰っていった

『トシ、近藤さん人生で最高の誕生日迎えられました…』

帰り道、彼は仕切りに呟いていたそうだ。





9/4 HappyBirthday!




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