花束を抱えて



かぶき町の片隅にひっそりと佇む小さな花屋

エリカはそこで今日も元気に働いている


『精が出るねィ』
入り口からひょっこり顔を出したのは真撰組の制服に身を包んだ青年

『いらっしゃい、沖田さん。』
最近よく顔を出す彼
花よりバズーカが似合う彼は来る度花束を買っていく

『今日はどんなのにしましょうか』
アイスキャンディーをくわえながら店先の花を眺めてる彼の隣に立つ

いつもポーカーフェイスでたまにイタズラしてくるけど然り気無く優しい、そんな人

最初は何を考えているか解らなくて苦手としていたけれど
今では彼がくるのが楽しみな位仲良くなっていた

彼に目をやると気になる栗色の髪がサラサラと風になびいている

…触ってみたい
なんてぼんやり見つめていたらバッチリ目があった。

『何見てんでィ、アイスはやらねぇぜ』

…いりませんよ


『真っ白な天女、みたいな感じで』

今日の花束のイメージ。

沖田さんのお相手は清楚な美人。
もちろん見たことなんてないけど、きっとそんな感じなんだろう

『しあわせ者ですね、沖田さんのお相手は』

心底、そう思う

『真っ白な天女』のイメージに合いそうな花を集めながら呟くように言った

『こんなにたくさんの花束もらえるなんてなかなか無いですよ、ちょっとうらやましいな』

彼は何も言わず、私の手元を眺めていた。

出来上がった真っ白な花束を綺麗な包装紙で包んで…

『はい、出来上がり』

『毎度、エリカの手には関心させられまさァ』
しげしげと花束を眺め感嘆する。

少し、照れくさかったりする

『喜んで貰えると良いですね』

この花束を彼から貰って喜ぶ綺麗な人。

頭のなかに浮かぶイメージに少し胸が痛んだ


心底、うらやましいと思った。

店を出た所で彼は振り返りこう尋ねてきた。
『やっぱりエリカも、こうゆうの貰いてぇもんですかィ』

夕日を背に花束を肩に乗せ振り返った姿はドラマのワンシーンのように素敵で私の胸を高鳴らせた。

『そうですね〜、女性は大抵喜ぶと思いますけど?』

ドキドキしてるのを誤魔化すように無理矢理明るく答えた。
顔が赤いのは夕陽が隠してくれる、だから大丈夫

『エリカはどうなんでィ』

真っ直ぐに見つめられて高鳴る鼓動は治まらず。

『…嬉しい、と思います。私、花、好きですから…』

彼はその答えに満足したのか店を後にした。

『また来るぜィ』と言い残して。


その数日後、彼はまたやって来た。

来て早々尋ねられた
『エリカの好きな花は何れなんでィ』

今日の花束はお任せかな?

『う〜ん、…ひまわり、かな。いつも太陽に向かって咲いてるトコがなんか健気でかわいいから』

店に置いてあるのは少し小振りのひまわり

彼はそれの前に立ってじっと眺めている。

『彼女のイメージとは違いますか?』

私の勝手な想像の彼女ともちょっと違うから

『いんや、ピッタリでさァ』
彼は意外な答えを返してきた。

オマケにそこにあるひまわりを全てお買い上げ。
ひまわりの花束のできあがり

そんなの初めて頼まれたけど…注文した本人が満足そうなので良しとしましょう


ありがとうございます

深くお辞儀をして、顔を上げて彼の見送る…

いつもなら見えるはずの背中がなく、何故か今日は自分の顔を見つめる彼の顔がそこにあった。

…え?なんで…?

彼は今しがた買ったひまわりの花束を差し出した。

『え…なんですか?…返品?』

『ちげぇよ、コレは俺からエリカにでさァ』

自分に起こっている事態が飲み込めない

『受けとんなせェ、ひまわりはアンタにピッタリでさァ』
放心状態でなかなか手を伸ばさない私に痺れを切らしたのか、半ば無理矢理受け取らされた。
花束越しに見えた彼はニヤリと笑みを浮かべた。

『どうでィ、嬉しいかィ』

事態に頭はついていかないけれど私の心に生まれた感情、それをそのまま彼に伝えた


花束を抱えて


『…嬉しい、です』




その頃、屯所では

『トシ、総悟は戻ってないか?』
屯所の前で着流し姿の近藤がそわそわ歩き回っていた

『アイツがどうかしたのか?』

『お妙さんに渡す花束を買ってくるよう頼んだんだが…遅いんだ、いつもならもう戻る頃なんだが…』

その花束はエリカの腕の中






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