一緒に帰ろう
眠らない街、歌舞伎町
その傍らに佇む一軒の屋台 酔いつぶれる一人の男と一人の女
『お客さ〜ん、大丈夫かい?』
あ〜…頼むから揺すらないで 頭がガンガンするの
エリカは頭を抱えて小さく呻いた。
隣の男はさっきから『お妙サ〜ン』と一升瓶抱え泣きながら叫んでる。
そうだ、女にフラれたこの男とリストラされた私はなぜか意気投合してこの屋台でやけ酒を酌み交わしていたんだっけ。
思い出したらまたムシャクシャしてきた。
『お兄さ〜ん!もう一軒付き合ってよぉ』 項垂れてるお兄さんの腕を掴んで立たせようと試みた。
『残念だが今夜はもうお開きだ、お嬢さん』
頭上から低い声が聞こえて思わず顔をあげた。
視線の先に居たのは怖い顔の人、瞳孔開いてますけど…
『土方さん、作り笑いでもしたらどうでさァ。彼女怯えてますぜ』 怖い顔の後に気だるそうに現れたのは亜麻色の髪の男…
怖い顔の人は困惑するエリカを気にも止めずお兄さんの体を支え立ち上がらせた。
『いつも済まねぇな、親父』 怖い顔の人は店主に頭を下げ、お兄さんを抱えながら夜道を歩き出した。
一人取り残されたエリカ『って訳でさぁ、アンタも帰りなせェ。どうやら飲み過ぎみてぇだ』
遠くなる二人の背中から視線を戻すともう一人の男がしゃがみこんでエリカの顔を覗き込むように見つめていた。
『大丈夫、わたしこうみえてもお酒つよいんです』 勢いよく立ち上がって見せたが足元は覚束無い。
『ほら見ろ、フラフラじゃねーか』 男は傾くエリカの体を片腕で支えた。
『こんなんじゃ明日が辛くなりますぜ。送ってってやりますから帰りなせェ』 感情が読み取れないポーカーフェイスから紡がれる気遣う言葉が胸に染み入る。
気づいたら頬が濡れていた。
『…まだいじめてもいないのに何ないてんでィ』 ポーカーフェイスに少し動揺の色がでた。
『大丈夫です、明日から仕事には行かなくていいんで朝まで飲んでやるんです。家に帰っても誰が待ってる訳じゃないし…ってゆうか今日は一人で居たくないんで!』
さっき会ったばかりの人に何八つ当たりしてんのよ… 内心罪悪感に苛まれながら乱暴に涙をぬぐいエリカは歩き出す。
それと同時に捕まれた右手。
振り返ると意地の悪そうな笑みを浮かべた男の顔が真っ先に目に入る。 『行かなくていいって、クビになったんで?』
『違う!リ、ス、ト、ラ!』 イライラして捕まれた手を思いきり振り払った。
『だからほっといて!』 絞り出した声は鼻声で堪えきれず涙が溢れ出す。
二人を包む沈黙がものすごく居心地が悪い。
堪えかねて先に口を開いたのは男の方だった。
『どんな男も女の涙には弱いもんでさァ』
俯くエリカの視界に入ってきたのは男の手のひら
『俺が一緒に居てやりまさァ』
だから
一緒に帰ろう
…今日くらい甘えてもいいよね
すべてお酒のせいにして エリカは男の手を取った
『あの…ここって…』
『真選組の屯所でさァ。明日からからここで働けばいい』
『えええ!』
『女中兼俺の僕だ、光栄だろ』
『えええええ!』
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