「きゃあああ!」


「愛美!」



三回目。三回目である。甲高い木原先輩の叫びとそれに反応した皆が木原先輩の周りにぶわっと集まるこの光景。私は参加するつもりは毛頭ない、つもりだった。なぜ、真っ暗な山道を歩いているのか。理解出来ない。



「バンダナ君が真っ青な顔して俯くから…しかも忍足様は焼肉奢るとか言うし……財前君は手繋いでやるとか言うし…。ぶっちゃけた話焼肉につられたんだ。」


「安いなお前」



くじ引きで決まったペアの不機嫌丸出しの切原君に安い呼ばわりされた。確か小春ちゃんはユウジ先輩とペア、財前君はまさかの跡部先輩だった。財前君は静かに舌打ちをしていた。木原先輩は氷帝の帽子かぶった人とペアらしい。だがペアとか関係なく周りに沢山はべらしている。
そういや部長はエクスタシーさんとだったらしく、嫌だ、と泣いていた。



 
「切原君も木原先輩んトコ行きなよ。私参加したって事実があればいいし」


「は?…お前どーすんだよ、いくら周りに人いるっていっても他のペアとは離れてるだろ」


「コースは見たから迷わないし、暗いの平気だし。それにどうせエクス…他のペアの人も木原先輩のトコいるだろうし、部長と合流するよ。ほら早く行かないと木原先輩とられるよ」


「……変なやつ」



ポツリ、と呟いてから切原君はとっとと走り出した。
あー、やっと行ったか。あの子苦手なんだよな。切原君も私を良くは思っていないだろうし。さて、さっさと合宿所に戻って寝よう。



 

「名字さん?」


「…おぉう、えっと…柳生先輩。あれ、ペアは?」


「それは此方のセリフです。名字さんのペアは確か…」


「透明人間の透明ちゃん、可愛いでしょう」


「……はぁ、まぁいいでしょう。予想はしていましたから。ペアは違いますが、私がご一緒してもよろしいですか?」


「いやいや、柳生先輩こそペアどうしたんですか」


「私のペアは仁王君です」


「あぁ…」


消えたのか。そう理解した。柳生先輩はでは行きましょう、と言って先を歩きだした。…ん?この人も木原先輩ラブだよな。でも紳士で通ってるから私を見捨てられないだけか。よし気を使ってやるか。


「柳生先輩、私なら全然平気なんで木原先輩のトコ行って下さい。」


「……彼女は、」



喋りだしたと思えば足を止める柳生先輩。つられて私も立ち止まる。苦しい声色だった。



「……私が思っているような、女性ではなかったのかもしれません。」


「柳生先輩顔青いですよ。苦手なら参加しなきゃよかったのに。」


「………まぁ、苦手、というか…得意ではありませんね」


「木原先輩のトコだったら人いっぱいいるし、まだ楽だと思いますよ。走ればすぐ追い付けるんでどうぞ行って下さい。」


「ですが、」


「私、部長と合流する約束してるんで大丈夫です」



にっこり。自分の笑顔というのは嘘をつくときには胡散臭くなるものだ。
柳生先輩を結構無理に木原先輩のトコへと走らせた。

…にしても……私が思っているような女性ではなかった…ねぇ。なんかやらかしたんだろうか。




「………ま、どーでもいいけど」


「…何がや?」


「おぐべ!」



溜め息を吐きながら伸びをしたら後ろから声をかけられて変な声を出してしまった。何かと思えばヘタレさんだった。横には忍足様を連れ立っている。



「忍足様!…………とヘタレターさん」


「手紙にしなや!なんやねんそのいらん手紙!」


「せや名前ちゃん、こっちも忍足言うねん。やから俺のことはゆうし様でええで」


「あはは丸眼鏡様面白い」


「忍足様でええわ」



ペアがまさかのW忍足なのかと思いきや、忍足様のペアは丸井先輩で、ヘタレターさんのペアは幸村先輩らしい。丸井先輩と幸村先輩が木原先輩のトコいったんだなと理解した。

…ん?



「ヘタヤ先輩木原先輩んとこ行かないんですか?忍足様が行かないのはわかりますけど…ヘタヤ先輩、木原先輩のこと好きでしたよね」


「せやで謙也、空気読めや」


「空気読めってなんすか」


「ここは空気読んで俺と名前ちゃん二人にするとこやで」


「そんなまさか、私は忍足様と二人になるなんて恐ろしくて恐ろしくて。あ、間違えた恐れ多くて」



私が忍足様を軽く避けていたらヘタヤ先輩がなんか様子が変だった。突っ込みもしないしどうしたんだろう。



「……なぁ、なんで、あん時愛美庇ったんや」


「え?」



黙っていたと思えばこちらを真っ直ぐに見てなんか顔を歪めながら質問してきた。どうしたヘタヤ君。
少し首を捻りながら考えると忍足様が「答えたってや」と笑顔で言った。