八分目どころか満腹まで食べたのが悪かったのかもしれない。
欠伸をしながら誰もいない広い廊下を歩いて部屋へと歩く。
途中…扉の近くを通った時、腕を掴まれてどこだかわからない部屋に引きずりこまれた。
不覚である。反応が遅れてしまうなんて。



「ごめんね。ちょっと話がしたくて」



微笑むその笑顔が、私の中から完全に眠気を消し去ってしまった。










 






「ユウジ君不自然だぜー」


「な、…何がや」


「名前避けてね?」



ガタンッ、と音をたてて椅子から落ちたユウジ君。
え、俺そんな変なこと言ったか?


焦って椅子に座り直したユウジ君を観察してみた。



「一番最初の…メインホールだっけ、そこに皆が集まった時に名前見付けたくせにスルーしたじゃん」


「パ、パジャマが見苦しかったんや」


「声かけようと思えば出来る距離なのにかけないし」


「べ、別に…用ないんや。俺とあいつは親子ちゃうし」



……こりゃ財前君辺りに葉っぱでもかけられたんかなー、ユウジ君。
いや、まぁ…別に口出すつもりはなかったんだけどよ…

こんなユウジ君見たくないってやつだわ



「ユウジ君さ、小春ちゃんに抱きつくとどうよ」


「どういう意味やねん」


「あー大丈夫、俺小春ちゃん的な可愛い子より厳ついマッスル系好きだし浮気はしない主義だから」



凄い迫力で睨まれた。
今のは俺の質問の仕方が悪かったな、うん。小春ちゃん関連出すとマジに威嚇されんの忘れてた。
趣味悪いと言われながら質問をもう少し丁寧にしてみる。



「小春ちゃんと抱き合ってると幸せじゃん?」


「当たり前やろが」


「じゃあ名前は?」


「……、…そんなん…」



目が泳いですぐ下を向いてしまう彼は生粋のツンデレだと思う。



「………セルライトのおかげでぶよぶよや」


「可哀想にww」



食べてすぐはそりゃ腹膨らむけどそのごまかしは可哀想だ。
俺ユウジ君推しだしちょっと口だすかな



「こう…腕にくるっとしてみてさ、守りたくなんね?」


「あいつ俺より強いやんけ」


「いやいや精神的に」


「………わからん」


「じゃあ腕にくるっとしてみれば解決するよ多分」


「………」


「後ろから首絞めんじゃなくて正面から、さ」


「……」


「正面からのアイアンクローじゃなくて、」



ちゃんと抱き締めてやれば、と言ったら顔そらされた。
はっずい奴、と呟いたのが聞こえてちょっと笑った。