「なんか氷帝騒がしーな。どないしてん」


「なんか写真部の子が笑いすぎて呼吸困難になったらしいで」


「名前やな」
「名前ちゃんやね」


先輩らの言葉でラケットを持つ手が止まった。呼吸困難って。大惨事やないか。


「あ、おい財前!名前なら放っとけや!笑いすぎて呼吸困難なんてようあんねん!」


「ユウ君、行かしたりなさいよ!休憩なんやし従姉妹の恋を応援したいわ〜!」


「小春は優しいな〜!でも名前はアカン、趣味が悪すぎや!」


「かわええやないの!」




うざったい後ろからの声はシカトで救護室に走る。周りから物珍しそうに見られたがどうでもええ。


「ちょっと、転ぶんで寄ってこないでもらえますか」


「せやから名前ちゃんが止まればええやろ?」


「一定の距離を保ちたいんです」


「つれないなぁ」


無駄に豪華すぎる廊下で見付けたのは氷帝の眼鏡に迫られてる所。カッとして乱暴に彼女の腕を引き寄せた。


「あだだだ!っだ!」


「なにしてんねんアンタ。」


「……それは自分やで。名前ちゃん尻餅ついとるやん」


「い、痛い…」



少し強く引き寄せすぎたらしく転ばせてしまった。すんません、とぼそりと謝った。やってしまった、と思ったら腰の当たりに彼女が隠れた。


「引っ張られなくてもあのままだったら転んでました!尻餅くらいなんでもないです!」


「、…」



自分の後ろに隠れて言う彼女の言葉につい嬉しさで頬が赤くなるのがわかった。


「随分嫌われてしもたなぁ。ホンマに話したいだけなんやけど」


「せやったら俺も付き合います」


「財前君優しいんだね。でも二人共練習行った方がいいんじゃないですか?」


「「……」」


 
まぁ、休憩終わるししゃーないな。そう思ってたら「せやな、名前ちゃんまたな」と言って去っていった。またなんてあってたまるか。



「いやーごめんね、ありがとう財前君。あの人苦手でさ」


「…俺こそ、転ばしてもうてすんません」


「いや、大丈夫だよ。じゃあ練習頑張ってね。」

「名前ッ、…さん…、……」


「……は、はい」



つい、去っていく彼女の名前を呼んで手を掴んだ。…さん付けって、なにしてんねん俺。彼女は驚いてこちらを見ている。なんで引き止めたんやろ。



「…あーいう人、手ぇ早いやろし」


「だろうね」


「危なそうやし…、」


「確かに」


「やから、守ったるから」


「……」


「……」


 
滅茶苦茶や。何言うてんねん。らしくもない。目が見れん。顔を伏せたら笑い声が聞こえた。笑われてもうた。もうアカン。



「イケメンで優しいとかやばいね。」


「…、」


「…私が笑ったら財前君も笑って欲しいな。あの台詞、まだ有効?」


 

赤くなる顔を伏せたまま、当たり前やろと言えばまた笑ってくれた。やっぱ離してやらんし逃がしてもやらん。