「おっそいでユウジ!…どないしたん名前ちゃん」


「ぉぇぐっ、ふ、うぇっ、」


「見ての通り失笑もんの大号泣や。……おい俺の距離終わってんねん早よ離せ降りれんやんけ」



ユウジ先輩が急停車したと思えばエクス…白石先輩がいた。
大号泣しながらもユウジ先輩を離して自分も降りた。何お前何で降りてんのって視線がきた。


「こ、こぎます」


「は?」


「何言うてんねんお前さっき頭のネジ落としたんちゃうんか」


「白石先輩、に、じ、自分から、抱き付きたくない」


「どうしよ拒否られてもうた」


「…もう何でもええから行け!」



 
私が自転車をこぐ側になって後ろに白石先輩を乗せて頑張る。白石先輩は私に掴まりはしなかった。



「おぉ、名前ちゃん頑張るなぁ。でもキツいんやない?」


「先輩が重いから」


「やから代わるって」


「………今まで、突っ掛かってごめんなさい。」


「…いきなりどないしたん」



「よくよく考えたら、私は白石先輩に失礼なことしかしてませんでした」


「…そうなんや?」


「昔の、自分と似てるかもって思って…全然似てないのに、勝手に勘違いして…余裕な顔むかつくとか言って、勘違いなのに余計なお節介やいて…」


「どんな勘違いなん?」


「……独りよがりな私と似てるって、思ってました。けど、全然違いました。白石先輩は頑張り屋で優しいだけでした。今まで、余計なことしてごめんなさい」



スピードをあげながらぶちまける。なんで、もっと早く謝れなかったんだろう。なんでもっと早く、独りよがりな自分に気付かなかったんだろう。わけわかんない。



「……名前ちゃん、俺無駄は嫌いなんや」


「そう、ですか」


「やから、俺はどうでもええ子に昼休み返上でご奉仕なんて無駄なこと、せえへんよ」



ご奉仕って。なんか他に言い方あったろ。なんて思ってたら信号が赤になって急ブレーキをした。その反動で背中に白石先輩がぶつかった。すぐ離れるかと思ったら腰に手を回されて抱き付かれてた。…え、どうしようこれ。



「名前ちゃん、いくらこの後が浪速のスピードスターでも物理的に間に合わなくなるから交代な」


「あ、はいすみません」


「謙也んとこ着く前に拭いときや」



身体を離して交代する時にハンカチを渡された。こういうところがモテるんだろうな。でも鼻水もあるから流石に人のハンカチを使う気になれなくて握り締めてた。
信号が青に変わって動き出す。背中を軽くさわっていたのを後悔した。超速ぇ!風圧で落ちるかと思ったぞ!



「腰掴んでええよ、落ちたくないやろ」


「…失礼します」



出来るだけ控えめに掴んだ。
……改めてこの人モテるだろうな、と思った。



「…俺、全部完璧やんな」


「そこは残念なんですね」


「白石君かっこええ、白石君凄い、とかはよく言われんねんけど」


「マジで残念なんですね」


「白石君大丈夫?、…とかは、ないんや」


「…そうなんですか」


「心配されたり、とか…なかったかも知れへん。」


「完璧ですもんね」


「そんなんされたら煩わしいやろなぁ、って思っとったんやけど」


「煩わしかったですよね、ごめんなさい」


「余計なお節介も心配も、嬉しかったんや」



やから、気にせんといて。
そう言われて、そのまま凄いスピードで駆け抜けたおかげで涙は渇いてた。