「オラ財前退け遅いんじゃボケコラ」


「は、まだ余裕っすわ。先輩が瞬間移動すれば」


「出来るか!」


「え、えぐっ」


「お前もいつまで財前に抱き付いてんねん早よ離せ、次俺………何泣かしてんねん財前」


「嬉し泣きやし」



自転車が急停車したかと思えば目の前にはユウジ先輩がいた。財前君にしがみついたまま私は情けないことにまた鼻水たらしながら泣いていたらしい。慌てて謝って財前君から腕を離した。
財前君が自転車から降りてユウジ先輩が乗った。選手交替みたい。



「ちゃんと掴まってろや、落とすぞ」


「お、おす!」


「名前、」



去り際財前君がなんか言ったけど風の音で聞こえなかった。ユウジ先輩に聞いたら知らん、で終わらされた。



「お前もうちょい上手い掴まえ方あるやろが!こげんやんけ!」


「ご、ごめんなざいーッ!」


「だぁぁあ泣くなッ!」



私が財前君にやったようにそりゃもうがっつり抱きついたらユウジ先輩に怒られた。じゃあ財前君はなんで文句一つ言わなかったんだ…やっぱ天界人か。

くだらないことを考えながら腕を緩くして背中に移動させようとしたらユウジ先輩の手が重なってまたさっきの位地に手を持ってかれた。重なった手がやけに熱かった。



「…こうでもせんとお前落ちるやろ」


「せん、ぱい…片手運転…2ケツで片手運転……」


「そうや危なかったで、車道によろめくかと…って真面目か!」


「ひぃぃい!あかんユウジ先輩前見て!ツッコミこっち向かんでええから前見てーッ!」


「っ、誰のせいじゃボケ!」




私がボケたのがいけないのか、ユウジ先輩が律儀にツッコミ入れたのが悪いのか、自転車がバランスを崩してグラグラ揺れた。でもスピードは落とさず進んでるのでめっちゃ怖かった。



「……名前、お前…家は」


「…もう大丈夫です」


「………ならええねん。…お前勘違いしてそうやから言っといたるわ」


「な、なんですか?」


「俺は小春の従姉妹やいうからお前のこと笑かしたりどついたりしとんのやないからな」


「…聞きました、聞きました、から」


「お前がどこに居ってもアホなこと言うたらどつきまわしに行ったるわ、ツッコミ居らなお前どーしよーもないやんけ」


「じゃあ、私がおもろいくらい大号泣しとったら、どうします、…か」


「………小春と新ネタ引っ提げて笑かしに行ったるわ。お前のおもろいくらいの大号泣見に行くついでに」


「ぜったい、ですからね」


「なんで俺が嘘つかなあかんのや!ええ加減にせぇよ!」


「…もっ、いやや一家に一台ユウジ先輩必要やもん持ち帰るー!」


「家電か!」



涙を止める術なんて沢山知っているはずなのに、どんなに頑張ってもこの鼻水と涙は止まらなかった。