「ぶぇきしょーいッ……」



え?今きしょいって誰かいった?
あぁ私のくしゃみか、そりゃそうだ私しかいねーし。

小春ちゃん家から歩いて二分、二年近く戻ってきてなかった実家。…実家、ってなんか嫌だな。私はペルシャが心の実家にしようなんかカッコイイ。


重い足を動かしてドアの前にたつ。インターホンってどこにあんだっけ、あぁ目の前にあったわ。



「………」



手が動かなくなって、どうしよーとか思ってたらなんか友達とか、ユウジ先輩とか小春ちゃんとか、財前君とか部長とか部長ママとか、皆のこと思い出して泣きそうになった。涙腺緩くなったんかな。
鼻の奥はまだ変な感覚するけどなんか笑えてきてインターホン連打してやった。地味に苛つけざまあみろ。



「…なん、って名前かい。何回も押すもんとちゃうやろー、どないしたん?やっぱこっち帰ってくる気になったん?」



まぁ入りー、なんて言う親父にすぐ済むからここでいいと言った。入りたくない。臭そう、あんたの女掃除出来そうなのいないし。



「一人で暮らしたい」「……は、おま…何言うとん。親戚のババアが嫌なら帰ってくればええやろ。」


「お金は出世払いするから中学卒業まで頼みたい。高校行ったらバイトする。…借りた分、必ず返すから」


「そんなん中学生が一人でなんて…まず帰ってくればええ話やろって」


「今も一人暮らしみたいなもんだから同じ。帰るつもりはない。今の奥さんお金持ちなんでしょ、お願い」


「誰も駄目や言うとるんやないで?なんでそんなことしたいんか聞いとるんや」


「ヒステリー起こして死んだ女の娘と一緒に暮らしたくないでしょ。私も嫌。」


「……誰がそんなん言うたん?オカンが言うたんか?」


「…私だって親父の考えてることくらいわかるよ。あんたの子だし。……もう、迷惑かけないから、あと一年ちょっとお金の世話してって言ってるの。名字なんてざらな名字だし親父にガキなんかいなかったことにすればいいし。出費はお高い猫でも飼ってるって言えばいいじゃん。」


「………名前はあいつやなくて俺に似たんやなぁ。まぁええわ、養育費はしっかり払ったる。今の奥さん金持ちやし」


「…ありがとう、それだけ、だから」


「ちょお待ちや名前、お前一人ぼっちなんやから意地張らんといつでも帰ってきてええんやで。寂しいやろー?」


「っ、」



優しい声色。

あんたが私を馬鹿にする時の声。
あの女も一人ぼっちやったよなー、って、腹ん中で笑ってる。

今までなら悔しくて堪らなくて、でも、言い返せなかった。


だけど、もう、





 



 


「一人じゃないねん」



 


皆に会いたくなった