「どうしてお前が洗濯してるんだ」


サラサラ君改め日吉君に借りたジャージをバカみたいに広いコインランドリーみたいなとこで洗濯中。
両耳イヤホンで音楽雑誌をめくる私に声をかけてきたのは跡部先輩だ。最初気付かなくてイヤホンを取られて再度同じセリフを言われた。



「日吉君から諸事情でジャージを借りたので洗濯してかえそうと洗濯させてもらってます」


「愛美を知らねぇか」


「ここには来てませんね」


「…ちっ」



舌打ちをした跡部先輩はコートには戻らず私の横のパイプイスにドカッと座った。え、やだ跡部先輩めんどくさそう。



「木原先輩探すんじゃないんですか?」


「あいつは顔はともかく仕事は遅ぇからな。どうせまだドリンクが終わってないんだろ」


「…いやいや行かないんですか?」


「あぁ?どこで休憩しようと俺様の勝手だろ」


「…、そうですけど…」



なんだかなぁ。
跡部先輩から顔をそらしてイヤホンを耳に突っ込んだ。
休憩らしいし無駄に話しかけるのもあれだよな、という私なりの配慮である。
だがそれはいらなかったようだ。
彼は私の左耳からイヤホンを盗みやがった。



「…洋楽か」


「跡部先輩は気に入らないでしょうね、耳垢ついてると思うんでイヤホン返して下さい」


「本当についてるぞ」


「だから言ったじゃないですか。そんな嫌そうな顔するなら返して下さい」


「明日の試合、俺と手塚の試合がある」


「無視ですか」


「試合のスコアをとれ」


「わかりました、木原先輩に伝えときますね」


「名字、俺はお前に言ってるんだ」


「木原先輩なら跡部先輩の試合って言ったら喜んでスコアとってくれますよ」


「どうだかな」


「…え?な、なにをそんな弱気に…。大丈夫ですよ、玉の輿だし木原先輩は跡部先輩に言い寄られたら落ちますよ、つーか大抵の女子なら肩書きと顔面だけでイケます、自信持って下さい」


「………お前は少し言葉を選びやがれ」


「ごめんなさい」



跡部先輩が変なことを言うもんだから私もつい変なことを言ってしまう。呆れられてしまった。



「肩書きと顔面…か。お前はどうだ、名字」


「え?そりゃ玉の輿だしアリじゃないんですか?」


「……曖昧だな」


「顔も性格も全てが良い財前君を見てしまったので…いくら肩書きが輝いて跡部先輩が身も心も凄い高貴な方でも財前君を見た後だと霞むんです」


「面白れぇ、見てろ」



そういうと立ち去った跡部先輩。彼は何をするつもりなんだ。とりあえずスコアの話は聞かなかったことにしよう。