Primavera 1

「本当に大丈夫か?」

テーブルの上に置いてあるノートパソコンのモニターを見つめたままの私に、隣に座るホルマジオが再びそう聞いてきた。最初に聞かれた時に大丈夫と答えていたけれど、説得力の無い表情だったからなのか。私の教育係である彼は後頭部を掻きながら大きく溜息をついた。
その様子は、名指しで任務の依頼が来た当の本人である私より落ち込んでいるように見える。

「ターゲットの好みがお前みたいな処女っぽい女とはなァ」
「処女っぽいじゃなくて処女なんだけどね」

普段は任務の内容に応じて誰が担当するかをリーダーが決めることが多い。時々個人宛の任務依頼はあるけれど、私は今回が初めてだった。
パッショーネはそれなりに大きな組織だから、ハニートラップ要員というか…色仕掛けで諜報活動を行うチームも在籍している。だけど今回のターゲットは、もしかしたら変態なのかも。諜報員の綺麗なお姉さんより、私のような地味でぼーっとした隙だらけの処女みたいな女が好きらしい。
殺しは無し。性的関係を利用し、懐柔して組織にとって重要なリストを盗む。たったこれだけの任務なのに、いつもより気が重くなる。スタンドも使っちゃ駄目みたいだし。私も小さく溜息をついて、任務の依頼内容が映るモニターから視線を外す。
この任務に、私が正真正銘の処女である必要性は無い。むしろ、事に慣れていない方が成功しないのでは。ホルマジオもたぶん、そこを心配しているんだと思う。じゃあさっさと処女なんて捨てればいいって話なんだけど、そんな相手はいない。となると、チームの誰かに練習台を頼むのが手っ取り早い。

「んだよおめーら。二人揃って辛気臭ェ面して」

アジトに戻ってきたプロシュートは私たちを見るなり、開口一番そう言った。そんなに酷い顔をしていたのだろうか。
私とホルマジオが座っている三人掛けのソファの斜め右にある、一人掛けのソファにプロシュートは腰を下ろす。それからローテーブルに両足を乗せて煙草を吸い始めた。本当にこの人、顔は綺麗なくせに行儀悪すぎ。

「お前さ、こいつの処女もらってくんね?」
「断る。めんどくせぇ。処女なんてさっさとドブにでも捨ててこい」

ホルマジオの提案に秒速で返すプロシュートは、口も悪い。誰がこんな男に捧げるか。こっちからお断りだ。

「イルーゾォなら暇そうにしてたぞ」
「アイツはヤッたら情が移るタイプだから駄目だ」
「ソルベかジェラート」
「処女に3Pはハードル高すぎだろ」
「は? アイツら女の穴まで共有してんのかよ」

好き勝手言ってる二人の会話は無視して、考えてみる。ギアッチョ…は手際が悪いとキレてきそうだから無し。メローネ…はなんか変な性癖拗らせてそうで嫌。ペッシ…は過保護なプロシュートにバレたら私が殺されそうだから無理。
恋愛感情に発展しなさそうで、処女でも嫌がらずに抱いてくれて、その後も仕事に支障が出ない人がいい。そんなちょっと多すぎるかもしれない注文に応えてくれる人が、そういえば一人だけいる。

「……リーダーに、頼んでみようかな」

私の言葉にぴたりと静かになった二人は、顔を見合せた。それから「いいんじゃねぇか」「いや、でもよォ」こそこそと言い合っている。何がダメなの。何なのこの二人。
もうこうなったらその辺のバーで誰か引っ掛けるしかない。今日の仕事はもう無いから帰ろうと立ち上がると、プロシュートに引き止められた。

「リゾットのチンコ、クソでけーぞ」

それを言われて私にどうしろというんだ、この顔だけ綺麗で下品な男は。やっぱりバーで適当な人にしてもらうと言えば、今度はホルマジオに止められた。「リゾットには俺から連絡しておくから寄り道せずに家に帰れ!」って。お母さんですか。

ホルマジオの言いつけ通り、バーには寄らず家に帰った。夜ごはんを食べ終えた頃、携帯電話からメッセージの受信音がしたので手に取る。リーダーからだった。
彼はホルマジオからの頼みごとを了承してくれたんだと思う。メッセージには、ホテル名と集合時間だけが書かれていた。
了解、と打ちながら今の時刻を確認する。集合まで、あと二時間くらい。私は何となくそわそわしながら、シャワーを浴びるためにバスルームへ向かった。

二十三時を二十分程過ぎた頃、静まり返ったホテルのロビーにリーダーは現れた。いつもの服装じゃなくて、スーツを着ている。今進めている仕事で、潜入してるんだっけ。仕事の合間に来てもらったようで、少し申し訳なく思った。

「悪い、遅くなった」
「ううん。忙しいのにごめん」
「もう終わったから大丈夫だ」

少ないやり取りをして、チェックインを済ませた彼の後ろについて歩きエレベーターホールへ向かう。
普段も誰かとこのホテルを利用しているのだろうか。エレベーターを降りても迷うことなく、部屋へと進んでいく。
だけど、エレベーターの時もそうだったし、部屋に入る今もドアを手で押さえて先に入るよう促してくれる彼に、今回のことを頼んでよかったと思った。
プロシュートなら迷わず自分が先に入るし、まずホテルの予約なんかしてくれない。いい意味でも悪い意味でも、私を女扱いしてくれたことはなかった。

「大体のことは、ホルマジオから聞いた」
「うん…こんなこと頼めるの、リーダーしかいなくて」
「俺は別に構わないが…お前はそれでいいのか?」

いきなりベッドに座る勇気はなく、窓際にある椅子に腰掛ける。彼は私と距離を取るように、バスルームの近くに立ったままだ。
普通こういうことは、好きな男とするもんだろう。そう言った彼に頭を横に振る。好きな人なんて、いないから。私はそう答えた。

「任務を失敗するリスクがあるなら、なるべく減らしたいの」
「……分かった」

漸くジャケットを脱いでハンガーに掛けた彼に、シャワーを使うか聞かれたので済ませてきたと伝える。アジトでもよくあるやり取りなのに、場所が違うだけで意味も変わってくるのが不思議だ。

「何か飲むか」
「…そうだね。何にする?」
「お前に任せる」

デスクの引き出しからルームサービスのメニューを出して私に渡すと、彼はバスルームへと消えていく。無難な値段の赤ワインを選んで、受話器を手に取った。
思っていたよりもワインの到着が早く、少し考えてからコルクの栓を抜いてグラスに注いだ。今更になって緊張してきたので、アルコールの力を借りたい。
バスルームから聞こえてくる音をなるべく耳に入れないように、少々行儀が悪いけど多めの一口を含む。味はよく分からなかった。

大嫌いだった義理の父親を殺したのは、十四歳の時だ。母に暴力を振るい、自分を凌辱しようとしたこの男のことをどうしても許せなくて。包丁で何度も何度も刺してやった。
正しいことをしたと思っていたのに、母親からは「お前が死ねばよかったのに」と言われただけで、あの日以来一度も会っていない。この先も、二度と会うことはないだろう。
少年刑務所でクソみたいな毎日を何年も過ごしていたある日、一人の男が私を訪ねてきた。私が殺した義理の父親はどうやらパッショーネのギャングだったらしい。
奴の上司だったという男は私を殺すつもりでここへ来たけど、気に入ったからここから出してやると言った。
よく分からないテストを受けさせられ、どうやらそれに合格したらしい。二週間後には刑務所の外に立っていた。
それから発現した私のスタンドは殺傷能力が高いタイプだったらしく、暗殺チームに配属となる。
思えば、あの頃からリーダーだけは私を馬鹿にすることなく、暗殺者の一人として接してくれていると思う。他のみんなはカス。普段は優しいペッシだって、時々プロシュートと一緒になって小馬鹿にしてくる。
しょうがないじゃん。十四歳で刑務所入って暗殺の仕事なんかしていたら、人を好きになる時間なんてないし、セックスをしてみたいと思ったこともないんだから。

二杯目のワインを飲む頃、バスルームのドアが開いてリーダーが出てきた。バスローブを羽織っている彼なんてアジトで見慣れているはずなのに、状況が状況なので妙にどきどきしてしまう。
テーブルを挟んで私の向かいに座った彼に、赤ワインを注いだグラスを渡す。私と違って、一口目はとても上品な飲み方だった。

「ホルマジオはお前に対して、少し過保護な所があるな」
「やっぱりそう思う?」
「酷かったぞ。今日の電話」
「最近、お母さんみたいなこと言うの。寄り道せずにまっすぐ家に帰りなさいとか」

彼は静かに溜息をついて、またワインを一口飲む。それから、お互いの任務の話や、アジトで酔っ払ったメローネがイルーゾォの膝に吐いたらペッシがキレたというカオスな話に二人で笑ったり。ワインのボトルが空になるまで、いつもみたいな会話を繰り返し、私は本来の目的を忘れかけていた。

「もう緊張してなさそうだな」
「いつもと変わらないかも」
「行くか」
「……うん」

グラスをテーブルに戻すと、彼は立ち上がる。少しだけ強めに腕を引かれ、そのままベッドの前まで連れてこられると、彼はゆっくりとベッドの端に腰を下ろした。
隣に座った方がいいのかよく分からないまま突っ立っていると、彼の腕が腰に触れる。ぐっと引き寄せられ、一歩近付く。こうやって、彼と目線が同じになる機会は少ない。

「キスは」
「学生の時に。あとは…」
「酔っ払ったメローネにか?」
「そう。なんか犬にされてるみたいだった」

メローネって本当にチームの中でいちばん酒癖悪いと思う。すぐお尻出すし、キスしようとする。二人で笑っていると、ぱちりと目が合う。彼との距離がさらに縮まったので、私は笑うのを止めた。
彼の瞳の色をこんなに近くで見るのは初めてだなと思いながら、目を閉じる。少し湿った柔らかい彼の唇が自分の唇に触れた。
少しだけ離れて、もう一度くっつく。何度かそう繰り返されると、彼の舌先だろうか。にゅるりとした温かいものが、何かを合図するように私の唇の間に留まっているのが分かった。この先に進んでいいかどうかの確認のように思えて、ゆっくりと唇を開いていく。
察してくれたであろう彼の舌が、口内に入り込んでくる。メローネがしたようなものではなくて、とても丁寧でゆっくりとした動きだった。
慣れないその感触に少し身体が強張り、思わず彼の両肩に手を置いた。自分も舌を動かすなんて余裕はなく、時折口からはふ、と息が漏れ出てしまう。
次第に彼の舌の動きは大胆になり、歯列をなぞり、自分の舌に絡まっていく。ぞわぞわした感覚に背筋が震え、彼の肩に置いていた手にも力が入る。頭がぼーっとし始めた頃、ちゅ、と音を立てて彼の唇が離れていった。

乱れた呼吸を整える間もなく、少し腰を浮かせた彼が背中に腕を回す。抱き寄せられ、ころりとベッドに寝かされた。
暫く私を見下ろしていた彼は上半身を起こすと、ベッドを降りていく。仰向けに寝転んだまま視線だけで彼の姿を追うと、照明のスイッチを切り、此方へ戻ってくる。
次にベッドのサイドランプの明かりを絞っているのを、ただ黙ってじっと見ていると「明るい方がよかったか」と聞かれたので、思い切り首を横に振った。

彼がベッドに乗り上げると、二人分の重さでマットは沈む。再び私を見下ろす彼の姿が確認できる程度の暗さになった部屋が纏う空気は、明らかに先程までとは違う。
そんな中でも、彼はいつもと変わらない表情だった。

「やめたくなったらすぐに言え」
「うん」

ゆっくりと目を閉じると、ついばむようなキスが降ってくる。それから、今度は確認されるようなことは無く口内に舌がねじ込まれた。さっきよりもずっと深いもので、息の仕方すら忘れてしまいそうになる。
トップスの裾の隙間から入り込んだ彼の手が脇腹をなぞり、背中へと移っていく。下着の留め具に辿り着くと、簡単に外されてしまった。
あまりの早さに何が起きたのか分からないでいると、トップスをたくし上げられる。
彼によって脱がされた服がベッド脇に落ちていく。腕で支えていた下着も取られ、身に付けているのはショーツ一枚だけになった。
そんな私とは対照的に彼はバスローブの紐を緩めることはなく、途端に恥ずかしさが込み上げる。最初からこんな調子で、大丈夫だろうか。
圧迫感のなくなった胸に彼の手が触れる。まだあまり反応していない乳首は、彼の指先が掠める度に硬く尖っていく。
それを口に含まれた途端、声が出そうになり咄嗟に手の甲を噛む。それでも口の隙間からは、ふっ、ふっ、と短い息が漏れてしまう。

「噛むな」
「っ、でも」
「声は出していい」

顔を上げた彼は口元にあった私の手を退かし、付いてしまった歯形をひと撫でする。それから自分の指を私に咥えさせ、首筋に唇を寄せた。舌で舐められ、時々吸われ、歯を食いしばりたくなるのをぐっと堪える。
鎖骨を通って徐々に降りていく唇が再びそこを含むと、口内にある彼の人差し指に軽く歯を立ててしまう。

「っふ、……ぅ」

何とも言えないむず痒いようなその感覚から逃げようと、足で何度もシーツを蹴る。布擦れの音と、呻くような私の声だけが静かな部屋に響く。時々アジトのテレビで付けっぱなしになっているポルノから聞こえてくるような声は、到底出せそうにない。

「、ぅ……ぁ」

口内から指が引き抜かれても、胸元にいる彼の舌の動きは止まらない。唾液に濡れた人差し指でもう片方の乳首を軽く弾かれると、びくりと大袈裟に腰が跳ねた。
漸く唇が離れ、彼の手は固く閉じたままの太腿を撫でる。何往復かすると隙間に差し込まれ、ゆっくりと足を割り開かれた。
ショーツの上から秘部に触れられ、思わず足を閉じる。視線を上げた彼と、目が合う。

「自分で触ったことは」
「な、ぃ」
「足に力が入り過ぎている。もっと楽にしろ」

そう言われても、足のどの部分の力を抜けばいいのか分からない。それを訴えるような視線を投げかけると、伸びてきた手が私の頭をそっと撫でた。
今までに数え切れない程の人間を殺してきたとは思えないくらい、その手つきは酷く優しい。そのおかげか、強ばっていた足の筋肉が解けるように緩んでいくのが自分でも分かった。

「っん、あ……」

ショーツの上から触れられたのは陰核で、弱い力がそこを刺激する。自分の口から出たのは、信じられないくらい甘い声だった。
目を見開き、口元を隠そうと伸ばした私の手は彼のもう片方の手によって絡め取られ、ベッドに縫い付けられるように制されてしまう。
明らかにさっきまでとは違う私の反応に、彼の指の動きは速さを増す。ばくばくと心臓が鳴り、お腹の奥底が熱くなるような未知の感覚に少しだけ怖くなる。
繋がれたままの彼の手を強く握ると、しっかりと握り返してくれた。

「あっ、ん」

膨れた陰核をぐっと押しつぶされ、左右に揺すられるような指の動きに変わった時。一際大きな声が出てしまった。今、彼から与えられているのは、快感からくるものだろうか。それすら私には分からない。
はっ、はっ、と短い呼吸を繰り返していると彼の指の動きは止まり、ショーツのクロッチ部分へと移る。隙間に指を差し込まれ触れられた秘部からは、くちゅ、と蜜の音がした。

「濡れてる。ちゃんと感じている証拠だ」
「そう…なの?」
「今のところ順調だ」
「そっ、か…よかったぁ……」

会話が終わると、するりとショーツを脱がされる。いよいよ自分だけが裸となり、恥ずかしさからなのか、まともに彼と目を合わせることができない。彼もバスローブを脱いでくれたら、この恥ずかしさは収まるのだろうか。だけど、脱いでと彼に頼むことは何故かできなかった。
膣口から蜜を絡ませた指先を再び陰核へと添えると、先程の続きと言わんばかりの動きが始まる。じわじわとではなく、今度は一気に未知の感覚が訪れた。これはもう、未知なんかじゃない。私は彼から快楽を与えられて、感じているんだ。うまく働いていない頭でそんなことを考えていると、指の動きがより一層激しくなった。

「っや、なんか、からだ、へん」
「変じゃない。大丈夫だ」
「待って、あっ、んぅ」
「そのままイッていい」

いいって、何が? そんなことを聞き返せる余裕はなく、足の間の奥から湧き上がるような熱と快感にびく、と太腿を震わせ、背中が弓形に反り上がる。彼の指の動きが収まると同時に、脱力した。
自分の身体に何が起こったのか分からない。何も考えられない。ただ荒い呼吸を繰り返すだけで、頭の中は空っぽだった。

「最初のうちは、ここの方がイキやすい」
「…オーガズム、ってこと?」
「そうだ」

そっか。私今、イッたんだ。妙な満足感に包まれるなか、彼はじんわりと汗をかいた私の額に張り付いた前髪を退かすと、そこにキスを落とした。
そのキスは、任務遂行を報告したときに彼が少しだけ褒めてくれた時の、小さな喜びに似ているような気がする。

「まだできそうか」
「うん」
「指を入れるが、痛みを感じたらすぐに言え」
「わかった」

イッたからだろうか。彼が触れた膣口は最初に触れられた時よりも蜜が溢れているようで、くちゃくちゃと淫らな音を立てる。それからゆっくりと少しずつ、彼の指が中に侵入していく。
耐えられない程では無いが、その異物感に思わず眉をひそめる。するとすぐに指の侵入は止まり、彼に顔を覗き込まれた。
大丈夫と言った私の表情が嘘でないことを確認すると、少しずつゆっくりと指が埋め込まれていく。
先程まで繋がれていた彼の手を思い出す。自分のものより、遥かに長く太い指だった。それが今、自分の身体の中に入ってきている。
自分の持つ知識では、普通こういう時の女性は快感に身悶えている。だけど今の私には、そのような気配が訪れるとは思えない。
不感症、マグロ女、そんな烙印を押された気分になった。
無反応な私に、彼が視線を上げる。どうやって謝ろうかな。口を開きかけると、私を見下ろしていた彼の顔が近付く。

「……ん」

少し冷えていた唇が、再び熱を持つ。自分も何か行動すべきだろうかと考え、彼の舌に触れてみる。
こちらの意図を察してくれたようで、誘い込むように彼の舌が導き、口内へと辿り着く。どうやってしたらいいのかな。彼の真似事をしてみても、うまく動かすことはできない。
舌が疲れ始めた頃、なんの前触れもなく陰核を押され、慌てて舌を引っ込めた。息苦しくなって唇を離せば、つぅ、と銀糸のように伸びた唾液が見えて、顔が熱くなる。とてつもなく、卑猥な光景に見えた。

「っひ、ぅ」

弱点を見抜いたかのように、彼はそこばかりを攻め立てる。膣内に入ったままの指への異物感は既に薄れていて、時折くちゅり、と音を立てながら抜き差しが繰り返されている。 また頭の中が空っぽになりそうな私を、彼は無表情のまま見下ろしていた。荒い呼吸と喘ぐばかりの自分が滑稽に思えてきて、ぎゅっと目を閉じる。

「ちゃんと見てろ」
「…やぁっ」

背中を丸めた彼が、硬く尖ったままだった乳首を舐め、少しだけ強く吸う。それから転がすように舌が動く。
これが任務の時だったら、絶対に目なんか閉じちゃいけない。それを思い出し、言われた通りに目を開けると、自分の身体を弄ぶ彼の姿が映る。
仕事のためとはいえ、彼によって快楽が与えられ続け、女になっていく。本当にこれは、現実なのだろうか。心と身体がバラバラになりそうだ。

「こういう時は気持ち良いと言えばいい」
「……ぅ、んっ」

この状態は気持ちいいものなんだと、顔を上げた彼に聞かれて初めて知った。ふわふわ、ゆらゆらする空っぽの頭に叩き込む。テレビ画面の中でポルノ女優がそう叫んでいたのも、こういうことだったのかと今になって漸く理解できた。
膣内の指の動きがまた変わり、壁を擦るように一定の場所を掻いている。中と外からのそれぞれ違う刺激に、熱が上り詰めてくる気配がした。

「っあ……んぅ」

ぎゅううう、とシーツを握り何度か身体が痙攣した後、全身の筋肉が弛緩していく。
ぐわんぐわんと揺れる視界の中で彼を見つけ、たまらなくなって手を伸ばす。バスローブ越しに触れた彼の身体は、私と違って平温を保っている。
少しの時間だけ抱きしめられ、離れていく前にまた額にキスをされた。

「今日はここまでだ」

ベッドを降りた彼は備え付けの冷蔵庫に向かうと、ミネラルウォーターのペットボトルを出して戻ってくる。起き上がり、ぼんやりとしたままそれを受け取った。
彼を興醒めさせる失態を知らないうちにおかしていたのだろうか。何か自分に不手際があったのだろうか。色々と考えても、言葉には出せなくて、ただ彼を見上げることしかできない。

「これ以上は明日の仕事に支障が出る」

私の考えを見透かしていたような彼の発言に、小さく頷く。ベッド上の足元の方にあった下着を身に着け、ペットボトルのキャップをかちりと回し開ける。冷たい水が喉を通り、身体の火照りも少しずつ落ち着いてきたように思う。
それから急激に押し寄せてきた疲労感に、サイドチェストにペットボトルを置いて寝転がる。下がりそうな瞼と眠気に抗っていると、彼の手が私の頭を撫でた。

「先に寝ていろ」
「……うん」

子どもを寝かしつけるようなその仕草に、眠気に身を任せることにした。終わったらとっとと帰れと部屋から追い出されなくて、本当によかったと思う。こんな無理なお願いを頼んだのに、どこまでも彼は優しい。
私の瞼にキスをすると、ベッドとは逆方向へと歩いていく。すぐに意識が落ちた私は、彼が何処へ向かったのかは分からない。



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