▼ くすぐったいの、その笑顔
最近、家の広いベランダでガーデニング(家庭菜園も含めて)を始めた。日当たりがすごく良くて、これは丁度いい!と思いたくさんのお花とか野菜を育てている。
今日は久しぶりのお休みなので少し寝坊をして起きた。誰もいないリビングのカーテンを開けるとたっぷりと日差しが差し込む。とても良い天気。窓を開けると爽やかな風が入ってきた。
先日のあの事件以来、隆二とは上手くやっていけるんじゃないかと思ったけど、それはあの時だけだった。顔を合わせれば言い合い。洗濯物が私のカゴの中に入っていたり、隆二専用の珈琲豆を勝手に使ったのがバレてしまったり、私の香水を勝手に使ってたり、私の化粧水をこっそり使っていたらしいし(登坂さんからの告げ口で発覚)
結局ルールを破るのは隆二と私。登坂さんは初めからルールには捉われていない。何のためのルールなんだっけ…と最近は思い始めている。
リビングに出て水やり。昨日は蕾だった花が咲いていたり、身が小さかった野菜が大きくなっていたり。たくさんの発見があって毎日の日課になっている。
「あれ、家庭菜園やってたんですか?」
「登坂さん。おはようございます。すみません、勝手にやってました」
「へぇー、知らなかった。好きなんですか?こういうの」
「はい!結構好きなんですよね〜。野菜とか食べれるし、育てるのとっても楽しいですよ!」
「僕はサボテンとかになら興味があって。あっ!これ可愛いサボテン!ちっちゃい!」
どうやら登坂さんもお休み?か、夜から仕事なのかボサボサの頭と寝起き顔でやってきた。サボテンを見つけてキラキラした目をしてまるで少年みたい。
サボテンに触ったりしている姿を見て、凄く可愛いなぁ〜と素直に思う。というよりもかっこよすぎる。横顔だけでも見惚れてしまう。それに性格も良いし、初めから登坂さんに対してはそんなに悪い印象はなかった。
「今日、お休みですか?」
「いえ、夜から仕事なんです。かえでさんは?」
「私はお休みです。もしよければ…朝ごはん簡単にですけど、作りましょうか?」
「えっ!いいんですか!ありがとうございます!」
これは気分。それに登坂さんだから言えること。待っている間に水やりをやりたいと言われたので任せることに。とっても楽しそうに水をあげている姿も見惚れてしまう。少しでも気を抜けば惚れてしまいそうな…そんな感じ。
冷蔵庫の中にあるもので簡単に朝ごはんを作る。普段は適当だけど、一応アーティストさんだし栄養バランスも考えて作った。そんなに詳しい訳ではないけど化粧品を作る仕事だから、昔何が良いもので何がどんな効果があるのか、そういった勉強をしてたからなんとなく分かる。
「はい、どうぞ」
「わー!すっげぇ!これ、本当に冷蔵庫の中にあったものですか?用意してたとかじゃなくて?」
「いえ、本当にあるものですけど…まぁ一応栄養バランスの良いものを作ってみました」
「ありがとうございます。めっちゃ美味そう!いただきます!」
モグモグと美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があった。自分の作ったものをこんな風に食べてくれる人と結婚したい。それは譲れない条件だ。登坂さんが芸能人じゃなかったら、私はこの人とそうなりたいなぁ〜と思っていたのだろう。
「美味しかったですか?」
「めっちゃ美味かったです!ごちそうさまでした!片付けは僕やりますから」
「いいですよ!私やります!何かやることたくさんあるんじゃないですか?」
「それはかえでさんもでしょ?やらせてくださいよ。座っててください」
駄目だ…これは惚れてしまう。なんて出来た人間なんだ。罪深い…これは罪深い。こんなことされて好きにならない人なんていないと思う。手際良く食器を洗う姿はとても素敵でやっぱりかっこいい。
「あの、そうだ!言いたいことあったんです」
「ん、何ですか?」
「その…敬語、止めにしませんか?」
「敬語ですか…?でも…」
「隆二にだって敬語使ってないじゃないですか!」
「それは!あいつがムカつく奴だからであって…」
「それに隆二とはお互い呼び捨てじゃないですか」
「あぁ…それは〜、う〜んと…」
「はい!決まり!これからはお互い呼び捨てで、敬語無し!決〜まり!!」
ニコニコした笑顔だった。そう言われたら否定もできないのでそうだね、と返事をすればよろしくね、と言われた。素直に嬉しい。
コーヒーを淹れて二人でテレビを見る。それはまるで同棲中の恋人同士みたいな。こんな姿、隆二に見られたらなんて言われるかな?怒られるのかな?
そんなの知らない。今はただ、普通の日常の中のひとコマにすぎない。久しぶりのお休みは、とっても落ち着いた穏やかな時間が流れてる。
水をたっぷりと吸収したお花が、グングンと太陽に向かって花を咲かせている。
それはまるで、私の心の中の様だ。
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